2021年度楽季プログラム(4/23現在)
ニュース2021年度楽季プログラムについて
東京都交響楽団音楽監督 大野和士
昨年から、私たちを撹乱し続けるかつてない状況は、音楽をはじめとする人間の文化の受け止め方に大きな転換を迫りました。演奏の分野でもリモートが自然のコミュニケーションとなり、その中で工夫を凝らした発信のヴァリエーションも増え続けています。しかしながら、一方で、私たちが、それら多様なコミュニケーションゆえに、改めてはっきりと認識し直したことは、私たちが演奏し、聴衆の皆様とコンサートホールで一体となるための「生きた音楽」の尊さであったと思います。
昨年6月、都響は、いち早く演奏再開への科学的検証を行い、独自の指針と行程表を策定した上で、7月以降、演奏を再開いたしましたが、その際に体験したこと全てが、その前とその後では明らかに異なる次元へ私たちを運んでくれたように思います。かけがえのないこの財産を胸に、都響と私は、皆様を新たなる地平へとお誘いするため、2021年度シーズンのご紹介をさせていただきます。
シーズン開幕では、マーラーの出世作と晩年の傑作をお届けします。マーラーは最初の大きな管弦楽曲を“交響詩”とするか“交響曲”とするか随分迷いました。彼自身の《さすらう若人の歌》の引用や、葬送行進曲にはフランス民謡やユダヤ教徒の祝日に奏されるバスドラムとシンバルの入ったバンド音楽の引用などがあり、そこここに自然界の音や世俗的なダンス音楽が聞かれる、まさに混沌とした交響曲第1番の世界。でもその中からやがて激しい愛の咽び、死への回帰、天上の響きなどが立ち現れるという壮大な音楽像が、歳月をかけてより成熟した形で作品化されていく過程がマーラー音楽の歴史であると言えるのでしょう。「若人」の希望と感傷に満ちた“さすらい”の行き着く果てが《大地の歌》第6楽章の最終の一節「私はもうあてどなくさすらうことはない。心は安らかに、その時を待つだけ」という、第1交響曲(1888)から《大地の歌》(1909)までの約20年間、“成熟と同時に朽ちていく”、作曲家の辿った軌跡に想いを馳せて聴いていただくのも良いかもしれません。
10月にはツェムリンスキー生誕150年記念プロジェクト、マーラーの影響を大きく受けた作曲家の書いたオスカー・ワイルド原作による名作オペラの演奏会形式上演です。2月には2020年に演奏予定だったショスタコーヴィチとブリテンの大作が然るべき時と場所を見出し、そしてターネジの新作日本初演まで、管弦楽の巨匠たちが一挙に顔を並べます。
首席客演指揮者アラン・ギルバートによる、20世紀スウェーデンの交響曲の大家ペッテション(7月)とブルックナー(3月)のそれぞれ第7交響曲を中心に据えたプログラムは今シーズンのハイライトの一つ。ペッテションの7番はギルバートが特に共感を持って採り上げてきた曲目であり、作曲家を一躍有名にしたこの曲の溢れるメロディと澄んだ響きは深い感銘をもたらすことでしょう。終身名誉指揮者小泉和裕の指揮するシェーンベルク&ブラームス(5月)とオネゲル&フォーレ(6月)も魅力に満ちたプログラム。前者は革新と伝統、 後者は悲劇性と安らぎを対比させる興味溢れるコンビネーションです。桂冠指揮者、巨匠エリアフ・インバル(3月)は、満を持してショスタコーヴィチ《バービイ・ヤール》と、ハンガリー名曲プログラムで、私たちを唸らせてくれること間違いありません。
客演指揮者陣として、ダニエル・ハーディングとの初共演は今季の話題をさらうことになりましょう。アルプス交響曲で彼と共にどのような高みまで登ることができるでしょうか。今、世界の注目を集めているヨーン・ストルゴーズと名匠オスモ・ヴァンスカがフィンランドの名曲を携え、ウィーンの名指揮者サッシャ・ゲッツェルは《火の鳥》で、シンガポールの若き星カーチュン・ウォンはラフマニノフの交響曲第2番で初登場。また、今シーズンには、タベア・ツィンマーマン、ポール・ルイス、ネマニャ・ラドゥロヴィチらの名手とともに、20代の日本人若手演奏家が続々登場するのも特筆すべきこと。井上道義と共演する辻󠄀彩奈は、今では世界の若手ヴァイオリニスト界を牽引する存在。プロムナードでの大関万結のブルッフ、富田心のグラズノフ、そして、なんといっても、日本人として初めてミュンヘン国際音楽コンクール・チェロ部門で優勝した佐藤晴真のドヴォルザークの協奏曲、どれも聴き逃せません。楽団からのソリストとして安藤芳広がカレヴィ・アホの超絶技巧によるティンパニ協奏曲、柳原佑介がニールセンのフルート協奏曲を演奏するのもお楽しみに。
今シーズンのコンサートカレンダーがより完全な形で実現できることを願ってやみません。しかしながら、たとえその時期がいかばかりか遅くなったとしても、都響のメンバー全員と私は、一つひとつの演奏会にエネルギーを注ぎ込み、いつも皆様との出会いを心待ちにしております。
2021年度楽季プログラム
※新型コロナウイルス感染症の流行状況の変化等により、公演中止および出演者・曲目等が変更になる場合があります。
(2021年4月23日現在)
▼回数の部分をクリックすると公演詳細ページが開きます。
定期演奏会Aシリーズ 東京文化会館 各回19:00開演(全8回) | |
第924回 4/18大阪特別公演と同演目 指揮/大野和士 カレヴィ・アホ:ティンパニ協奏曲(2015)[日本初演] |
第926回 指揮/小泉和裕 シェーンベルク:浄められた夜 op.4 |
第929回 指揮/指揮/秋山和慶 シベリウス:交響詩《吟遊詩人》op.64 |
第935回 指揮/ローレンス・レネス ワーグナー:歌劇『さまよえるオランダ人』序曲 |
第938回 指揮/サッシャ・ゲッツェル チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35 |
第941回 1/17定期Cと同演目 指揮/マーティン・ブラビンズ ウォルトン:前奏曲とフーガ《スピットファイア》 |
第944回 指揮/大野和士 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 op.58 |
第946回 3/14定期Bと同演目 指揮/エリアフ・インバル ラフマニノフ:交響詩《死の島》 op.29 |
定期演奏会Bシリーズ サントリーホール 各回19:00開演(全8回) | |
第925回 4/25都響スペシャルと同演目 指揮/大野和士 ショスタコーヴィチ:交響曲第1番 へ短調 op.10 |
第928回 指揮/小泉和裕 オネゲル:交響曲第3番《典礼風》 |
第931回 指揮/アラン・ギルバート ペッテション:交響曲第7番 (1967) |
第934回 指揮/マルク・ミンコフスキ ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB105(ノヴァーク版) |
第937回 10/20定期Cと同演目 指揮/大野和士 【ツェムリンスキー生誕150年記念】 |
第939回 指揮/アントニ・ヴィト ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 op.30 |
第942回 指揮/大野和士 ターネジ:タイム・フライズ(Time Flies)2020[都響、BBCラジオ3、NDRエルプフィル共同委嘱作品/日本初演] |
第945回 3/15定期Aと同演目 指揮/エリアフ・インバル ラフマニノフ:交響詩《死の島》 op.29 |
定期演奏会Cシリーズ 東京芸術劇場コンサートホール 各回14:00開演(全8回) | |
第927回 指揮/井上道義 サティ:バレエ音楽《パラード》 |
第930回 指揮/アラン・ギルバート バーンスタイン:『キャンディード』序曲 (1956/89改訂) |
第932回 7/19都響スペシャルと同演目 指揮/ダニエル・ハーディング シューベルト:交響曲第3番 ニ長調 D200 |
第933回 指揮/小泉和裕 シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D485 |
第936回 10/21定期Bと同演目 指揮/大野和士 【ツェムリンスキー生誕150年記念】 |
第940回 1/18定期Aと同演目 指揮/マーティン・ブラビンズ ウォルトン:前奏曲とフーガ《スピットファイア》 |
第943回 指揮/大野和士 ドビュッシー:舞踊詩《遊戯》 |
第947回 3/27都響スペシャルと同演目 指揮/アラン・ギルバート アンナ・ソルヴァルドスドッティル:メタコスモス(2017)[日本初演] |
プロムナードコンサート サントリーホール 各回14:00開演(全5回) | |
No.392 指揮/下野竜也 ヘンデル(ベインズ&マッケラス校訂):《王宮の花火の音楽》序曲 |
No.393 指揮/小泉和裕 ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 op.104 |
No.394 指揮/カーチュン・ウォン デュビュニョン:サクソフォン協奏曲(2021)[上野耕平委嘱作品/世界初演] |
No.395 指揮/オスモ・ヴァンスカ シベリウス:組曲《カレリア》op.11 |
No.396 指揮/エリアフ・インバル バルトーク:《中国の不思議な役人》組曲 op.19 Sz.73 |
特別演奏会・その他 | |
名古屋特別公演 指揮/大野和士 レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲 |
大阪特別公演 4/20定期Aと同演目 指揮/大野和士 カレヴィ・アホ:ティンパニ協奏曲(2015)[日本初演] |
都響スペシャル 4/26定期Bと同演目 指揮/大野和士 ショスタコーヴィチ:交響曲第1番 へ短調 op.10 |
都響スペシャル 7/18定期Cと同演目 指揮/ダニエル・ハーディング シューベルト:交響曲第3番 ニ長調 D200 |
都響スペシャル「第九」 指揮/準・メルクル ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 op.125《合唱付》 |
都響スペシャル 3/26定期Cと同演目 指揮/アラン・ギルバート アンナ・ソルヴァルドスドッティル:メタコスモス(2017)[日本初演] |