定期演奏会 Cシリーズ

第879回定期演奏会Cシリーズ
【ディアギレフとロシア・バレエ団へのオマージュ】

終了日時：2019年6月8日（土） 14:00開演（13:20開場）

場所：東京芸術劇場コンサートホールホール案内座席表

～アルゼンチンの俊英が都響初登壇～

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出演

指揮／アレホ・ペレス
ピアノ／長尾洋史 *
メゾソプラノ／加藤のぞみ **

プロフィール一覧

アレホ・ペレス（指揮）

近年アレホ・ペレスはザルツブルク音楽祭（マスネ「ウェルテル」、ウィーン・フィルとのグノー「ファウスト」）、地元ブエノスアイレスのコロン劇場（パルジファル、ばらの騎士）、ゼンパ－オーパ・ドレズデン（カルメン）、シカゴ・リリック・オペラ（エフゲニー・オネーギン）で指揮者としての技量を発揮している。
2018年7月日本で東京二期会オペラと読響に登壇、ウェーバー「魔弾の射手」でデビュー。
2009年から2012年、Teatro Argentino de La Plataの音楽監督を務める。マドリードのテアトロ・レアルでドミンゴ、ベルガンサ、ボストリッジがソリストを務める演奏会でOrquesta Sinfonica de Madridと密接に仕事をする。多数の起用により世界的なオペラハウスに招かれており、フィルハーモニア、フランス放送管、ブエノスアイレス・フィル、SWRシュトゥットガルト放送響、スイス・ロマンド管、NDRエルプフィル、ベルリン・ドイツ響等にも登壇。

長尾洋史（ピアノ）

東京藝術大学、同大学院修士課程を修了。安宅賞を受賞。宗廣祐詩、遠藤道子、米谷治郎の各氏に師事。1995年、パリ・エコールノルマルに留学。

NHK交響楽団、東京交響楽団、東京都交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団など主要オーケストラとの共演、ソロ・リサイタル、多数の国内外の作品初演、主要音楽祭、NHK等のメディア出演のほか、マクサンス・ラリュー（フルート）、ジャン＝イヴ・フルモー（サクソフォン）、パーヴェル・ベルマン（ヴァイオリン）など国内外の管楽器、弦楽器奏者と共演、その活動は多岐にわたっている。CDは「エボカシオン」「ラヴェル＆ドビュッシー」（ライブノーツ）、「メシアン：アーメンの幻影（2台ピアノ）」、「リスト＆レーガーを弾く」（コジマ録音）のソロ、またミシェル・ベッケ（トロンボーン）、ワルター・アウアー（フルート）、加納悦子（メゾソプラノ）らとの共演およびCD多数。

透明で芯のある美しい音、緻密で精巧なテクニックの中に、熱くみずみずしい音楽を聴かせることのできる数少ない演奏家である。

加藤のぞみ（メゾソプラノ）

2005年　第59回滝廉太郎記念全国高等学校声楽コンクール第1位　2013年　第43回イタリア声楽コンコルソミラノ大賞部門第1位　第1回グランダーテ国際オペラコンクール（30歳以下部門）第1位　第6回レナータ・テバルディ国際オペラコンクールファイナリスト
・誕生年　1987年　　・出身　神奈川県・住所　パルマ/神奈川県秦野市・プロフィール　　
①学歴　2006年　神奈川県立小田原高等学校卒業　2010年　東京藝術大学音楽学部声楽科卒業　2013年　同大学院音楽研究科修士課程声楽科（オペラ専攻）修了　2013年　イタリア留学　パルマ音楽院”アッリーゴ・ボイト"に在学中
②音楽活動歴
東京藝術大学音楽学部声楽科在学時に安宅賞、卒業時に松田トシ賞、アカンサス賞、同声会賞受賞し、第60回読売新人演奏会、同声会新人演奏会に出演。同大学院音楽研究科修士課程声楽科オペラ専攻を大学院アカンサス賞、武藤舞奨学金を受賞し首席卒業。
2009年『藝大メサイア』、2010年藝大合唱定期シューマン『楽園とペリ』、2012年同合唱定期ドヴォルジャーク『スターバト・マーテル』にアルトソリストとして出演。2011年藝大オペラ定期『コジファントゥッテ』にドラベッラ役として出演。
他にも荒川区、中央区、台東区の第九、ヴェルディ『レクイエム』、モーツァルト『レクイエム』などでアルトソロを務める。2013年度明治安田クオリティオブライフ文化財団の海外研修生としてイタリアへ留学。
2014年2月、パルマ王立歌劇場公演ロッシーニ『結婚手形』クラリーナ役でイタリアデビュー。同年11月にはイタリアのフィデンツァ歌劇場にてプッチーニ『蝶々夫人』スズキ役で好評を得た。2016年4月には同役でピアチェンツァ、モデナの歌劇場で出演。2015年夏、マルティーナ・フランカのヴァッレ・ディトリア音楽祭にてマイヤー『コリントのメデア』イズメネ役にて出演。指揮者のFabio Luisiと共演をはたした。
スペインにも活躍の場を広げ、2014年10月、スペイン・カナリア諸島のアウディトリオ・デ・テネリフェにて、ロッシーニ『チェネレントラ』ティスベ役で出演。2015年は同劇場にてドニゼッティ『アンナ・ボレーナ』スメトン役でセルソ・アルベロ氏、アレッサンドラ・ヴォルペ氏と共演。現在、スペイン・バレンシアの劇場Palau de les arts Reina Sofia直属の研修所Centre de Perfeccionament Plácido Domingoに所属。二期会会員

曲目

ストラヴィンスキー：バレエ音楽《ペトルーシュカ》（1947年版）*

曲目解説
ファリャ：バレエ音楽《三角帽子》（全曲）**

曲目解説

　20世紀音楽に大きな足跡を残した作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー（1882〜1971）が、稀代の天才興行師セルゲイ・ディアギレフ（1872〜1929）の依頼によって書いた《火の鳥》《ペトルーシュカ》《春の祭典》のいわゆる「3大バレエ」は、現在もストラヴィンスキーの作品中、最も人気がある。
　《ペトルーシュカ》はその第2作にあたる。《火の鳥》で一躍、有名作曲家になったストラヴィンスキーは、1910年夏、《春の祭典》に取りかかったのだが、それと並行して、ピアノ独奏をもつ協奏的作品を試みていた。作曲中、なぜかストラヴィンスキーの頭を離れなかったのが「突然に命を得た操り人形」というアイディアだった。彼がこのことをディアギレフに話すと、ディアギレフは非常に気に入り、そのテーマでバレエ作品を作曲することを依頼する。こうして完成したのが《ペトルーシュカ》だ。
　《ペトルーシュカ》のストーリーは、命を吹き込まれた人形が恋をし、争い、殺されるというものだ。ストラヴィンスキーはこれを、民謡や俗謡、それにウィンナ・ワルツなどを大胆にコラージュし、ピアノ独奏を含む4管編成の大オーケストラを駆使した色彩豊かな音楽で表現した。36歳のピエール・モントゥー（1875〜1964）が指揮した初演は大成功で、観客の中にいたクロード・ドビュッシー（1862〜1918）は、ストラヴィンスキーにわざわざ賛辞の手紙を送っている。
　ところで《ペトルーシュカ》は1946〜47年に、作曲者自身「地質学にたとえれば2つの層のようなもので、お互いに関与しない」というほど大幅に改訂される。1911年版は4管編成だったが、1947年版は3管編成に縮小したり、グロッケンシュピールを省いたりしたこともあり、より見通しが良くなっている。また、複雑な変拍子の表記が整理されて、指揮がしやすくなっている。これは、アメリカ亡命後のストラヴィンスキーに、指揮者としての活動が増えていたということも背景にある。エルネスト・アンセルメ（1883〜1969）のように、改訂版のオーケストレーションを認めなかった指揮者もいたが、作曲者の意向もあり、現在、演奏会や録音で取り上げられるのは1947年版が多い。
　全体は4場から成り、各場はドラムロールで転換される。以下、各場の中の細かな場面（太字で表記）は1947年版スコアによる。
　第1場　「謝肉祭の市場」サンクトペテルブルクの謝肉祭の市場でのにぎやかな雑踏が描写される。突然、ドラムロールが鳴りわたり、騒ぎは静まる。静かになった群衆の前に人形使いが現れてフルートを吹くと、ペトルーシュカ、バレリーナ、ムーア人の3体の人形に生命が吹き込まれ、ピアノが活躍する「ロシアの踊り」を踊りだす。
　第2場　「ペトルーシュカ」薄暗い小屋に放り込まれたペトルーシュカは、自分の悲しみをわびしく歌ったり、懸命にドアから出ようとしたりする。ピアノが、彼の心情を表す哀感に満ちた歌を歌う。突然テンポが速くなる。彼が思いを寄せるバレリーナがやってきたのである。ペトルーシュカは彼女への思いを告白するが、まったく相手にされず、絶望する（弱音器付きトランペットの強奏）。
　第3場　「ムーア人」不気味な序奏に続き、エキゾティックなムーア人の踊り（クラリネットとバスクラリネット）が始まる。やがてバレリーナがムーア人の部屋に入ってきて踊りを始め（小太鼓とトランペット）、力強いムーア人の気を引こうとする。最初は関心のないそぶりだったムーア人だが、やがて2人は「ワルツ」を踊りだす。そこへペトルーシュカが登場し、ムーア人につかみかかるが、相手にならず、追い出されてしまう。
　第4場　「謝肉祭の市場とペトルーシュカの死」再び謝肉祭の雑踏の場面。第1場よりもにぎわいを増している。4分の6拍子に変わり、「乳母の踊り」へ。民謡から転用された主題が2つ現れたあと、「農夫と熊」となり熊を連れた農夫が登場する。テューバのユーモラスなソロは熊を表す。その後、「ジプシー（ロマ）と陽気な行商人」で行商人（グリッサンドを伴う弦の旋律）とロマの娘が現れ、「御者の踊り」（弦全員がダウンで弾く音型で始まる）を経て「仮面」で最高潮に達する。

　バレエ上演の場合はさらに続きがあるのだが、本日は作曲者がスコアに記載したコンサート・エンディングを用いるため、音量的クライマックスを迎えた上記で演奏は終了する。現在、このエンディングを選ぶ指揮者は滅多にいないので、生で聴く機会は少ないが、ストラヴィンスキーは自ら指揮した録音でこちらを採用している。なお、本日は演奏されない「仮面」以降の部分は次のようになっている。
　突然、ペトルーシュカの叫びが聴こえる。ムーア人に追われたペトルーシュカが逃げてきたのである（乱闘／ムーア人とペトルーシュカ）。バレリーナの制止も聞かず、ムーア人はペトルーシュカを斬り殺す（ペトルーシュカの死）。静まりかえる群衆。「警官と人形使い」が現れ、人形使いはペトルーシュカの死体を引いていく。見せ物小屋の屋根の上に「ペトルーシュカの幽霊」が現れる。人形使いは恐ろしくなり、ペトルーシュカを捨てて逃げ出す。弦の不気味なピツィカートで幕となる。
（増田良介）
　

作曲年代	1910年〜1911年5月26日　1946〜1947年改訂
初　　演	1911年版／1911年6月13日　パリ・シャトレ座　ピエール・モントゥー指揮
楽器編成	フルート3（第3はピッコロ持替）、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット3（第3はバスクラリネット持替）、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、大太鼓、タンブリン、小太鼓、タムタム、シロフォン、ハープ、ピアノ、チェレスタ、弦楽5部

　晴れやかなトランペットのファンファーレが鳴りわたり、乾いたパルマ（手拍子）と「オレ！」の声に支えられて、粉屋の女房の唄が始まる。4分の3拍子で書かれてはいるが、これはフラメンコの12拍子にも聴こえる。短いが印象的な序奏を持つバレエ《三角帽子》は、きわめてアンダルシア的な雰囲気で幕を開ける。それはこの作品を生み出したマヌエル・デ・ファリャ（1876〜1946）の出自にも関係しているだろう。
　ファリャの生まれ故郷は、15世紀末にコロンブスが船出したスペイン西端の港町カディス。町を歩けば海からの風が爽やかに吹き、市立美術館のはす向かいに今も残るファリャの生家跡を、からりとした陽光が照らし出す。1876年この町で生を享けたファリャは、早くから作曲を志して首都マドリード、次いでパリへ出た。第1次世界大戦（1914〜18）のため帰国を余儀なくされたが、作曲家として脂の乗った時期を迎えていたファリャの創作意欲は衰えることなく、次々と作品を発表していった。
　この時代、スペインでは民族楽派の波が高まっていた。イサーク・アルベニス（1860〜1909）、エンリケ・グラナドス（1867〜1916）・・・・・・しかし彼らがピアノという楽器に比較的特化していたのに対し、ファリャの関心は早くから、管弦楽や舞台作品に向けられていた。マドリード音楽院の作曲コンクールへの応募作だったオペラ『はかなき人生』、《三角帽子》と並んで名高いバレエ作品《恋は魔術師》・・・・・そのスケールの大きさは、それまでの民族楽派の作品とは一線を画していた。また、その素材の処理の仕方も、言うなれば“ベタでない”のだ。パリ留学中にクロード・ドビュッシー（1862〜1918）らと相知り、印象主義的な音楽に大きな影響を受けたというファリャの作風は、生まれ育ったスペイン南部のエッセンスを強く内蔵しながらも、非常に洗練された味わいを備えている。
　それを踏まえて改めて、《三角帽子》を見ていこう。この作品は19世紀に人気を博した小説家ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン（1833〜91）の同名小説が原作となっている。三角帽子とはすなわち、代官がかぶる三角形をした帽子のことで、ひいては権力そのもののシンボルともなる。権力を振りかざす代官を、庶民が知恵でやりこめる。このテーマは、スペイン民衆お好みのものだ。
　ファリャのもとに作曲の依頼が舞い込んだのは1916年、依頼主はロシア・バレエの偉才、セルゲイ・ディアギレフ（1872〜1929）。すでにその前年、ファリャと友人の劇作家グレゴリオ・マルティネス・シエラ（1881〜1947）は《恋は魔術師》を成功に導いていた。戦時下という状況に配慮したパントマイム上演（その時点のタイトルは《代官と粉屋の女房》）を経て大幅に加筆、1919年7月、振り付けのレオニード・マシーン（1896〜1979）が主役の粉屋を演じ、賑々しくバレエ《三角帽子》の初演が行われた。舞台装置と衣装をパブロ・ピカソ（1881〜1973）が手がけたことも話題になった。
　序奏−第1幕−第2幕から成る。第1幕と第2幕の間のみ区切りがあるが、各場面（太字で表記）は切れ目なく演奏され、聴衆の耳を捉えて離さない。
　冒頭で紹介した序奏に続いて第1幕となり、「午後」で睦まじい粉屋夫妻の様子が描かれる。黒ツグミ（ピッコロ独奏）に鳴き方を教えようとする粉屋、うまく鳴かせる女房。ユーモラスで平和な夫婦の昼下がりは、やがてティンパニの音が無遠慮に告げる代官一行の見回りで途切れる。女房の美しさに目をつける代官（ファゴット独奏）。ここから、お決まりの横恋慕の物語が展開される。
　「粉屋の女房の踊り（ファンダンゴ）」で粋に踊る女房は戯れに、代官に向かってブドウを差し出す。すっかりその気になって女房に言い寄る代官、「ブドウ」でいいように彼をこけにする粉屋夫妻。代官が憤然と退場して第1幕は閉じられる。
　第2幕の「隣人たちの踊り（セギディーリャ）」は聖ヨハネ祭を祝ってセギディーリャの踊りに興ずる人々の姿で始まる。ホルンのファンファーレに導かれて「粉屋の踊り（ファルーカ）」となり、女房に促された粉屋が得意のファルーカを踊る。勇壮な踊りは、このバレエ全体の白眉でもある。しかし代官の命を受けた護衛兵が粉屋を連れ去る（この時に扉を叩くノックの音は《運命》モティーフのパロディ）。悲しみに暮れる女房。遠くで「夜ともなればカッコウが鳴く」の唄。時計（クラリネット）と黒ツグミ（ピッコロ）が9時を告げる。
　夜陰に乗じて代官（ファゴット独奏）が忍んでくるが、カスタネットが先導する伊達を気取った「代官の踊り」は女房の反撃に遭い、彼は小川に落ちる
（ピアノとハープのグリッサンド）。そこへ粉屋がうまく逃れてくるが、干してある代官の帽子と服を見て仰天。すわ女房の浮気かと、それをまとって代官宅へ。「終幕の踊り（ホタ）」では、粉屋の服を着こんだ代官が、自分の部下にさんざんな目に遭わされる。代官に意趣返しができたと人々は喜び、舞曲ホタを踊って大いに盛り上がる。聴いているだけで踊り出したくなるような、生命力あふれる華やいだ終曲である。
（濱田吾愛）
　

作曲年代	1916〜1917年
初　　演	1919年7月22日　ロンドンエルネスト・アンセルメ指揮　バレエ・リュス
楽器編成	ルート3（第1と第3はピッコロ持替）、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット3、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、サスペンデッドシンバル、小太鼓、トライアングル、グロッケンシュピール、シロフォン、カスタネット、タムタム、ハープ、ピアノ（チェレスタ持替）、弦楽5部、独唱メゾソプラノ（バレエ上演のときは舞台の陰で歌う）

当日券　全席種　計60枚程度予定。12:45より会場にて発売。
※残席がある場合のみ、休憩（14:40頃）より「おそ割」販売予定。休憩時からのご入場で1回券定価の50％OFF。（6/7up）

聴きどころ

2019年はロシア・バレエ団の旗揚げから110年、主宰ディアギレフの没後90年、そして彼らがファリャの《三角帽子》を初演して100年に当たることにちなんで、やはり彼らによって世に出たストラヴィンスキー《ペトルーシュカ》とともに、華やかなバレエ音楽プログラムをお届けします。指揮は、2016年ザルツブルク音楽祭でウィーン・フィルを指揮してグノー『ファウスト』を大成功させた、アルゼンチン出身の俊英アレホ・ペレス。