【インタビュー記事】伊東 裕 ハイドン:チェロ協奏曲第1番を語る(12/4定期B、12/5定期A)

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 12月4日B定期、12月5日A定期にソリストとして登場、ハイドンのチェロ協奏曲第1番を弾く伊東裕(都響首席チェロ奏者)。演奏者から見た曲の魅力を伺いました。

取材・文/友部衆樹

◆ ハイドンの思い出

 今回、「協奏曲を弾きませんか」というオファーをいただいた時に、まず考えたのはチェロ独奏をもつR. シュトラウスの交響詩《ドン・キホーテ》でした。都響の入団オーディションの課題曲でもありましたし、いつか弾いてみたいと思っていて。ただ《ドン・キホーテ》は演奏時間が長く楽器編成も大きいので、プログラムに入れるのは難しいとのこと。それで、逆に小編成で演奏できる曲が良いかな、とハイドンのチェロ協奏曲第1番を選びました。
 ハイドンには真作とされるチェロ協奏曲が2曲あります。第1番ハ長調と第2番ニ長調。どちらも大傑作で、チェリストにとって大事なレパートリーです。国際コンクールでは必ず課題曲になりますし、オーケストラの入団オーディションでも必須。第1番は躍動感があり、リズムが生き生きとしている。第2番は長いフレーズで歌うところが多い。また、第1番は楽章の演奏時間のバランスが良い。第2番は第1楽章がすごく長くて、第2・第3楽章はコンパクトです。
 小6の時に、泉の森ジュニアチェロコンクールでハイドンのチェロ協奏曲第1番第1楽章を弾きました。この時が「協奏曲」を弾いた初体験。高音域を弾くためにハイ・ポジションを使うのも初めてで、とても苦労しました。当時この曲に夢中になり、ロストロポーヴィチの録音などを聴いて、よく練習したことを覚えています。
 中3の時、オーディションに受かるとプロのオーケストラ(大阪センチュリー交響楽団/現・日本センチュリー交響楽団)と協演できる企画があり、やはりハイドンのチェロ協奏曲第1番を弾かせていただきました。小6のコンクールではピアノ伴奏でしたから、生まれて初めてオーケストラと全曲演奏した協奏曲がハイドンの第1番で、思い入れのある曲です。

◆ 古典派のチェロ協奏曲


 ハイドンと同時代の古典派の代表的な作曲家、モーツァルトやベートーヴェンはチェロ協奏曲を遺していません。モーツァルトは19歳の時にチェロ協奏曲を書いたという説がありますが、楽譜は散逸しています。モーツァルトの曲はオーケストラや室内楽でたくさん演奏してきましたが、センス良く演奏することが本当に難しいです。チェロ協奏曲があれば非常に苦労したと思いますが、ヴァイオリン協奏曲は5曲、ピアノ協奏曲は23曲(番号をもつ27曲のうち、第1~4番は他者のピアノ作品にもとづく習作的編曲)もあるのでチェロ協奏曲も1曲くらいは残っていてほしかったなと思います。
 同じく古典派のボッケリーニのチェロ協奏曲も演奏したことがありますが、ハイ・ポジションが多用されていて、技巧的にも勉強になりました。
 ハイドンのチェロ協奏曲は改めて勉強してみると、古典派の様式感や基礎的な音楽の作り方など、チェロを弾くことにおいても音楽を深めることにおいても非常に学ぶところの多い、チェリストにとって欠かせない大切な曲だと感じています。演奏会で取り上げられることが多くはないと思いますが、チェリスト以外の方にも知っていただきたい名曲です。

◆ 本番に向けて

 ハイドンのチェロ協奏曲第1番の第1楽章(モデラート)はリズミックで、溌剌とした雰囲気で始まります。その後に続く旋律も希望にあふれていてとても素敵です。第2楽章(アダージョ)はカンタービレ楽章で、シンプルですが、素朴で温かみがあります。第3楽章(フィナーレ/アレグロ・モルト)は華やかなフィナーレで、オーケストラの8分音符のきざみが生き生きとしています。展開部にはソロのテクニカルな見せ場もあり、コーダはエネルギッシュで感動的で大好きです。
 全体に、チェロのソロとオーケストラが共にハーモニーを作り、和音の移り変わりを楽しめるところも多いですね。ソロとオーケストラが対峙するのではなく、一緒にアンサンブルを作っていく。楽譜自体、ソロは独立して書かれておらず、オーケストラのチェロ・パートの中で「ここからはソロ」と指定する書き方になっています。実演では前奏や後奏でトゥッティのパートを弾くソリストも多いのですが、今回どうするか思案しています。

 自分が所属する都響と、ソリストとして協奏曲を演奏するのは今回が初めて。かなり緊張しそうな予感がありますが、それを集中に変換すべく、練習を続けているところです。素晴らしい都響のメンバーと共に、ハイドンの素敵な1曲をお届けできればと思っています。ぜひ会場でそのひと時を楽しんでいただけましたら幸いです。 

伊東 裕 プロフィール

(『月刊都響』2024年12月号)

第1012回定期演奏会Bシリーズ

2024年12月4日(水) 19:00開演 サントリーホール

第1013回定期演奏会Aシリーズ

2024年12月5日(木) 19:00開演 東京文化会館

指揮/ロバート・トレヴィーノ
チェロ/伊東 裕(都響首席奏者)

ハイドン:チェロ協奏曲第1番 ハ長調 Hob.VIIb:1
ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ハ短調 op.65
公演詳細(12/4)
公演詳細(12/5)

料金/S¥7,500 A¥6,500 B¥5,500 C¥4,500 P¥3,500(12/4)/ Ex¥3,200(12/5)