【第22回 都響マエストロ・ビジット】 音楽監督 大野和士×都響メンバーが都立高校で「特別講義」
レポート
「都響マエストロ・ビジット」は、都響の指揮者が都内の小中学校や高校を訪問して開く特別講義。コロナ禍による休止を経て2023年度は4年ぶりの開催となり、10月10日に音楽監督・大野和士と都響メンバーが東京都立西高等学校を訪問、100分の講義を行った。
会場は西高音楽室。前半は、管弦楽部メンバーを前に大野和士が指揮者になるまでの道のりを語った。
「音楽との出会いは、4~5歳ころにレコードで聴いたベートーヴェンの交響曲第3番《英雄》です。冒頭の2つの和音にものすごい衝撃を受け、こんなに分厚くて壮大な音があるんだと興味をもちました。やがて100人のオーケストラが演奏していて、それを率いるのが指揮者だと知って、憧れましたね。
東京藝大の指揮科へ進みましたが、楽器の演奏者に比べると、指揮者は何を練習したら良いのか分からない。試験でベートーヴェンの交響曲第2番を振ることになり、1年ほど冒頭の“パパーン”という音型を頭の中で何千回も鳴らしてイメージを作りました。いよいよ試験に臨み、プロの先生方が並ぶ数十人のオーケストラを前にしたところ、気負い過ぎてしまって。気合を入れて腕を震わせて振り下ろしたら、オーケストラは大混乱(笑)。フェルマータの後で音を切ろうとしましたが、それも伝わらず、音楽が前へ進まない。この大失敗は自分の原点になっています。大学を卒業後、ミュンヘンのオペラ劇場で勉強を続け、プロの道へ進むことができました」
生徒から「これまでに一番緊張したことは?」との質問を受け、「先ほどの大学時代の試験もそうですが、27歳で受けたトスカニーニ国際指揮者コンクールですね。過酷なスケジュールで、参加者は予選で落とされ、5人、3人と減っていく。自分は来週この場にいないかもしれない、と思うと本選前の2週間は眠れなくなり、何も食べられません
でした。なんとか優勝できたのですが、げっそりと痩せたことを覚えています。しかし緊張は必要なこと。それを乗り越えると、新しい世界が見えてくるのですから」
後半は、都響メンバーが西高管弦楽部に参加しての合同セッション。9月の西高記念祭(文化祭)で演奏したビゼー『カルメン』組曲抜粋と、メンデルスゾーン《結婚行進曲》を、大野和士の指揮でリハーサルを行った。「ここは闘牛士が“オレを見ろ”と誇っている場面ですから、堂々と。続くpのフレーズは恋人カルメンを思うところなので、甘い音色で」など、イメージを生き生きと伝えていく。都響メンバーからは「装飾音では慌てずに、もっと時間を使って」と奏法の具体的なアドバイスもあった。「音」が表情豊かな「音楽」に変わっていく濃密な時間は、生徒たちに強い印象を残したに違いない。最後に大野は「これからも練習に励み、勉強もしっかりやって、楽しく有意義な毎日を過ごしてください」と生徒たちに語りかけ、リハーサルを締めくくった。
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第22回 都響マエストロ・ビジット
2023年10月10日
東京都立西高等学校 音楽室
訪問者/大野和士(音楽監督)、横山和加子(ヴァイオリン)、広田智之(オーボエ)、内藤知裕(トランペット)
参加生徒/東京都立西高等学校 管弦楽部
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(取材・文/友部衆樹 写真/©堀田力丸 『月刊都響』2023年12月号より転載)