【完売御礼】都響スペシャル（8/10）

終了日時：2024年8月10日（土） 14:00開演（13:00開場）

場所：サントリーホールホール案内座席表

8/9定期Bと同演目

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出演

指揮／ダニエル・ハーディング
ソプラノ／ニカ・ゴリッチ

プロフィール一覧

ダニエル・ハーディング　Daniel HARDING（指揮）

スウェーデン放送交響楽団の音楽・芸術監督。2024/25 シーズンからはローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の音楽監督に就任する。これまでに、パリ管弦楽団音楽監督（2016年～2019年）、ロンドン交響楽団の首席客演指揮者（2007年～2017年）を務めた。
20年以上共に活動してきたマーラー・チェンバー・オーケストラ（MCO）からは終身桂冠指揮者の称号を与えられている。2020年には、2021-22年と2022-23年のシーズンにおいて、スイス・ロマンド管弦楽団のコンダクター・イン・レジデンスに任命された。2024年には、中国・大湾青年音楽文化協会（YMCG）の音楽監督に就任し、任期は5年である。
2002年、フランス政府よりシュバリエ芸術文化勲章授与、2017年には芸術文化勲章オフィシエにノミネートされた。2012年スウェーデン王立音楽アカデミーのメンバーに選出された。2021年、新年の栄誉賞でCBEを授与された。飛行機の事業用操縦士（CPL）資格を有している。

photo:©Julian Hargreaves

ニカ・ゴリッチ　Nika GORIČ（ソプラノ）

スロヴェニア出身。マリボルのバレエ音楽学校、グラーツ音楽舞台芸術大学、ロンドンの王立音楽アカデミーで学び、リリアン・ワトソンとジョナサン・パップに師事。2017年、その年の最優秀オールラウンド学生に贈られる女王の優秀賞を受賞した。2019年王立音楽アカデミーのアソシエイト（音楽界に多大な貢献をした元学生に贈られる）を授与された。最近では、メクレンブルク＝フォアポンメルン音楽祭で聴衆賞を受賞した。
　2022/2023年シーズンには、ジルダ役（リゴレット）、アディーナ役（愛の妙薬）、エウリディーチェ役（地獄のオルフェ）、フィオルディリージ役（コジ・ファン・トゥッテ）、コンサート版ジネヴラ役（アリオダンテ）、フランクフルト・オペラ座で世界初演されるオペラ『ブリュヘン』にアンナ役で出演する。

photo©Doris Markač

曲目

ベルク：7つの初期の歌

曲目解説
マーラー：交響曲第1番ニ長調《巨人》

曲目解説

ベルク：7つの初期の歌

　新ウィーン楽派を代表する作曲家のひとり、アルバン・ベルク（1885～1935）は創作活動の初期にあたる1900年から1910年頃にかけて、80曲を超えるピアノ伴奏歌曲を作曲した。1928年に《7つの初期の歌》として出版され、作曲家の妻ヘレーネ（1885～1976）に捧げられた7曲もこの頃の作品であり、1905年から1908年にかけて、いずれも作曲家がアルノルト・シェーンベルク（1874～1951）に師事していた時期に書かれている。
　7つの歌曲のうち、第3曲「夜鳴きうぐいす」、第4曲「夢を抱いて」、第6曲「愛の讃歌」の3曲は、1907年11月7日にウィーンで開かれたシェーンベルク門下生によるコンサートで歌手のエルザ・パツェラー（1881～1943）と作曲家カール・ホルヴィッツ（1884～1925）のピアノで初演された。これは、ベルクの作品が初めて公開の場で奏された記念すべきコンサートであった。
　その後、ベルクは1917年に、これら7曲を含む「10の歌曲」をまとめ上げ、出会ってから10周年の記念として「私の愛する妻」ヘレーネに贈った。それからさらに10年後、既に歌劇『ヴォツェック』（1925年初演）などで成功を収めていた作曲家は、再びこの歌曲集に立ち戻り、改訂を加えるとともに管弦楽伴奏版の編曲にも取り組んだ。その一部は、デンマーク出身の作曲家・指揮者パウル・フォン・クレーナウ（1883～1946）の提案を受けて、1928年3月18日にソプラノ歌手ワンダ・アクセル=クレメンス（1886～1977）とクレーナウ指揮のウィーン交響楽団によって演奏され、オーストリアの公共ラジオ放送局RAVAGにて放送された。当初ベルクがクレーナウから提案されたのはラジオ・コンサートでの演奏だけだったが、アクセル=クレメンスからの絶賛を受け、作曲家はこれらの歌曲を仕立て直して出版することにした。その結果として、1928年にウニヴェルザール社よりピアノ伴奏版が出版されたのであった。
　なお、管弦楽伴奏版《7つの初期の歌》は、1928年11月6日にウィーン楽友協会大ホールにて、クレア・ボーン（1898～1965）の独唱とロベルト・ヘーガー（1886～1978）率いるウィーン交響楽団によって全曲初演された。スコアが出版されたのは、作曲家の死後20年以上を経た1959年のことである。

　楽曲全体は、フル・オーケストラによる第1・7曲を外枠に、その間に幾分控え目な編成の偶数曲と、弦楽合奏を伴う第3曲、対照的に管楽合奏を中心とした第5曲が置かれたシンメトリカルな構成となっている。
　第1曲「夜」　非常にゆっくりと　全音音階で書かれたドビュッシー作品を思わせる旋律に乗せて、ドイツの小説家・劇作家カール・ハウプトマン（1858～1921）の詩の第1連が歌われて始まる。対照的に、中間部（第2・3連）では、ハープの響きに伴われて伸びやかな旋律が紡がれる。原曲は1906年春作曲。
　第2曲「葦の歌」　中くらいの速さで　弦楽五重奏を中心とした室内楽的な伴奏のなか、オーストリアの詩人ニコラウス・レーナウ（1802～1850）の詩がたゆたうように歌われていく。1906年秋作曲。
　第3曲「夜鳴きうぐいす」　柔らかく、動きをもって　ブラームス、マーラーら後期ロマン派の音楽を思わせる抒情美あふれる作品。コントラバスを除き、各パート2部に分割された弦楽合奏の柔和な調べのなかで、ドイツの抒情詩人テオドール・シュトルム（1817～88）の童話『ヒンツェルマイアー』に挿入された詩が歌われる。1907年春作曲。
　第4曲「夢を抱いて」　ゆっくりと　オーストリアの詩人ライナー・マリア・リルケ（1875～1926）の詩が、和声進行のぼかされた幻想的な色彩のなかで美しく響きわたる。1907年8月作曲。
　第5曲「この部屋で」　軽やかに、動きをもって　管楽器を中心とした素朴な調べに伴われて、ドイツの作家ヨハネス・シュラーフ（1862～1941）による詩が歌われる。1905年夏作曲。
　第6曲「愛の讃歌」　非常にゆっくりと　アルベール・ジロー『月に憑かれたピエロ』のドイツ語訳者としても知られるドイツの劇作家、オットー・エーリヒ・ハルトレーベン（1864～1905）の詩が、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』を髣髴とさせる調べとともに歌われていく。風のざわめきを思わせる小太鼓の響きがよいアクセントになっている。1906年秋作曲。
　第7曲「夏の日々」　いきいきと　半音と4度の上行に始まる旋律が次々折り重なっていく前奏に導かれて、ベルクの少年時代からの友人パウル・ホーエンベルク（1885～1956）による詩が歌い出される。躍動感に満ちた終曲である。1908年夏作曲。
（本田裕暉）

作曲年代	ピアノ伴奏版作曲／1905～08年　改訂・管弦楽編曲／1928年
初　　演	管弦楽伴奏版／1928年11月6日　ウィーンクレア・ボーン独唱　ロベルト・ヘーガー指揮　ウィーン交響楽団
楽器編成	フルート2（第2はピッコロ持替）、オーボエ2（第2はイングリッシュホルン持替）、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット、トロンボーン2、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、トライアングル、シンバル、タムタム、ハープ、チェレスタ、弦楽5部、独唱ソプラノ

マーラー：交響曲第1番ニ長調《巨人》

　グスタフ・マーラー（1860～1911）の交響曲の中でも第5番とともに演奏頻度の高いこの第1番は、現在一般に演奏されている最終稿の形になるまでに紆余曲折があった。作品の構想は1884年頃で、初稿は1888年3月に完成されている。この頃のマーラーは指揮者として各地の劇場のポストを転々としていた。指揮者としての彼の実力は高く評価されていたが、ユダヤ人という出自ゆえに嫌がらせを受けたり、自己主張の強い性格から劇場当局との衝突が絶えなかったりして、ひとつのポストに長く留まることができなかったのである。
　初稿を書き上げた1888年にはライプツィヒ市立劇場次席指揮者のポストにあったが、ここでも首席楽長アルトゥール・ニキシュ（1855～1922）と対立し、この作品の創作のため職務が疎かになったことも災いして、作品完成の約2ヶ月後に辞職に追い込まれてしまう。
　同年10月ブダペスト王立歌劇場音楽監督のポストを手に入れたマーラーは、翌1889年11月20日ブダペストでこの初稿を自らの指揮で初演した。ただこの時は交響曲でなく「2部からなる交響詩」として発表された。初稿は5楽章でなり、交響詩でありながら、表題（タイトル）も標題（表現内容を示す言葉）もなかった。
　その後1891年に彼はブダペストの職を離れ、ハンブルク市立劇場第一指揮者に就任する。そして1893年にこの作品の改訂作業に乗り出す。改訂は大々的で、特に終楽章（第5楽章）は構成が大きく変えられた。この改訂稿は同年10月27日ハンブルクにて自身の指揮で初演され、曲題は「交響曲形式による音詩《巨人》」とされ、全体を2部に分けた各部分に以下の題が付けられた。

　第1部　青春の日々より～花の、果実の、そして茨の絵
　　第1楽章　春、そして終わりなし
　　第2楽章　花の章
　　第3楽章　帆を一杯に孕ませて（スケルツォ）
　第2部　人間喜劇
　　第4楽章　難破（カロ風の葬送行進曲）
　　第5楽章　地獄から

　曲題“巨人”や曲中の題“花、果実、茨の絵”などの語はドイツの小説家ジャン・パウル（1763～1825）の小説から採られ、また「花の章」はもともとマーラーが1884年にドイツの詩人兼小説家ヨーゼフ・ヴィクトル・フォン・シェッフェル（1826～86）の叙事詩「ゼッキンゲンのラッパ吹き」の付随音楽として書いた音楽であり、さらに第4楽章はフランスの版画家ジャック・カロ（1592～1635）の風刺画と関わっているなど、文学や絵画との関連がこの改訂稿の題からは見て取れる。
　しかしこれらはあとから当てはめた題と考えたほうがよいようだ。当初からマーラーは英雄的な若者の苦闘や希望をこの作品で描こうとし、それに相応しい題を改めて交響詩らしく付加したと考えられる。そうした若者像は指揮者として苦闘していた彼自身に重なるものであることはおそらく間違いなく、また彼が経験した失恋や恋の悩みも作品に反映されていることは、歌手ヨハンナ・リヒター（1858～1943／生没年は異説あり）に対する自身の失恋に基づく歌曲集《さすらう若人の歌》や、故郷イグラウでの恋愛体験と関わる歌曲《ハンスとグレーテ》などが曲中に引用されていることに示唆されている。
　この改訂稿は翌1894年6月3日ヴァイマルにてやはり彼自身の指揮で再演されるが、その際またも大幅な改訂が加えられた。全体構成や各部・楽章の題は前年の改訂稿を引き継いでいるが、当時のヴァイマルの楽長リヒャルト・シュトラウス（1864～1949）宛の手紙でマーラー自身記しているように「全体に輪郭がはっきりし透明度が増した」ものとなったのである。
　しかし改訂はまだ続く。マーラーはさらにオーケストレーションやダイナミクスなどに大幅に手を加え、“巨人”という曲題も各部・各楽章の題も全て取り去った上に第2楽章「花の章」を削除、1896年3月16日ベルリンで4楽章の“交響曲”として初演した。こうして今日一般に演奏されている交響曲第1番の形（その後も細部の手直しはされる）が出来上がったのである（それゆえ現行の第1番を《巨人》と呼ぶことは適切でないが、今でも通称として広く用いられている）。
　このように度重なる改訂を経た作品だが、青春の喜び、愛の憧憬、失意、精神的苦闘の間を多感に揺れ動きながら最後に勝利へ至るという全曲の構図のうちに、若きマーラーの人生観や自然観を表現した作品であるという根本的な点は一貫している。交響曲作家マーラーの出発点として重要な作品である。

　第1楽章　ゆっくりひきずって～常にとても快適に　ニ長調　自然の目覚めを表す序奏が置かれ、弦のハーモニクスを背景にした管楽器の下行4度（4度音程は作品全体の重要な要素）、クラリネットの狩の音型や舞台裏トランペットのファンファーレなどが神秘的な雰囲気を作り出す。主部は自由なソナタ形式で、チェロが奏する軽やかな第1主題は歌曲集《さすらう若人の歌》の第2曲「朝の野辺を歩けば」の引用。展開部では不安な感情も入り混じるが、総じて青春を謳歌するような明るさに満ちた楽章である。
　第2楽章　力強く動きをもって、しかし速すぎず　イ長調　スケルツォに相当し、素材は歌曲《ハンスとグレーテ》と共通する。下行4度のレントラー風の伴奏に始まる躍動的な音楽で、牧歌的なトリオが挟まれる。
　第3楽章　厳粛かつ荘重に、ひきずることなく　ニ短調　不気味な暗さを持った楽章で、コントラバス独奏（1992年に出たマーラー協会版では従来の協会版とは違ってコントラバス・パート全員で弾くようになっていて物議を醸した）に始まる俗謡「マルティン兄貴（ジャック兄貴）」のパロディによるカノンで始まる。動物たちの葬列を描いたカロの戯画にヒントを得た葬送行進曲だが、突然グロテスクなドンチャン騒ぎに転じるなど、アイロニカルな性格も持つ。一転して憧憬の気分に満ちた中間部の主題は歌曲集《さすらう若人の歌》の第4曲「2つの青い眼」の後半の旋律の引用である。
　第4楽章　嵐のように動的に　ヘ短調　ロマン派好みの“闘争から勝利へ”という構図の長大なフィナーレで、闘争的な第1主題と夢見るような第2主題を軸に、第1楽章に出た楽想なども取り入れつつ起伏に満ちた劇的な展開を繰り広げ、最後はニ長調を確立して勝利を謳歌（ホルンは立ち上がって奏するように指示されている）しながら圧倒的なエンディングに至る。
（寺西基之）

作曲年代	初稿／1884～88年　改訂／1893～96年
初　　演	初稿／1889年11月20日　ブダペスト改訂稿／1893年10月27日　ハンブルク再改訂稿／1894年6月3日　ヴァイマル決定稿／1896年3月16日　ベルリン　いずれも作曲者指揮
楽器編成	フルート4（第2～4はピッコロ持替）、オーボエ4（第4はイングリッシュホルン持替）、クラリネット4（第3はバスクラリネットと小クラリネット持替、第4は小クラリネット持替）、ファゴット3（第3はコントラファゴット持替）、ホルン7、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ2組、大太鼓、シンバル、トライアングル、タムタム、ハープ、弦楽5部

都響スペシャル（8/10）は当日券も含め完売いたしました。チケットをお持ちのお客様はお忘れなくご来場くださいませ。（8/10up）

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聴きどころ

コロナ禍2021年7月のキャンセルを経て、いよいよダニエル・ハーディングが初登場へ。互いに高いマーラー経験値を持つハーディングと都響が、交響曲第1番という直球勝負であいまみえる初共演にご注目ください。前半はハーディングが推す新世代のソプラノ、ニカ・ゴリッチが歌うベルクがプログラムに奥行きと彩を与えます。