プロムナードコンサートNo.405 │ 東京都交響楽団

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出演

指揮／大友直人
サクソフォン／上野耕平
オルガン／福本茉莉

プロフィール一覧

大友直人　Naoto OTOMO（指揮）

桐朋学園在学中に 22 才で NHK 交響楽団を指揮してデビュー以来、日本の音楽界をリードし続けている日本を代表する指揮者のひとり。これまでに日本フィル正指揮者、大阪フィル専属指揮者、東京交響楽団常任指揮者、京都市交響楽団常任指揮者、群馬交響楽団音楽監督を歴任。現在東京交響楽団名誉客演指揮者、京都市交響楽団桂冠指揮者、琉球交響楽団音楽監督、高崎芸術劇場芸術監督、瀬戸フィルハーモニー交響楽団ミュージックアドバイザー。
海外オーケストラからも度々客演として招かれ、ハワイ響には旧ホノルル響時代から20 年以上にわたり定期的に招かれている。
東京文化会館の初代音楽監督として東京音楽コンクールの基盤を築いたほか、海外オーケストラからも度々客演として招かれ、ハワイ響においては 20 年以上にわたり定期的に招かれている。幅広いレパートリーでも知られ、その中でも日本を代表する邦人作曲家作品の初演やジェームス・マクミラン作品及びジョン・アダムスのオペラ日本初演等は代表的に挙げられる。
小澤征爾、森正、秋山和慶、尾高忠明、岡部守弘らに学ぶ。NHK 交響楽団指揮研究員時代にはサヴァリッシュ、ヴァント、ライトナー、ブロムシュテット、シュタインらに学び、タングルウッドミュージックセンターではバーンスタイン、プレヴィン、マルケヴィチからも指導を受けた。大阪芸術大学教授、東邦音楽大学特任教授。京都市立芸術大学、洗足学園大学各客員教授。

Photo©Rowland Kirishima

上野耕平　Kohei UENO（サクソフォン）

東京藝術大学器楽科卒業。第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門第1位・特別大賞（史上最年少）。2014年第6回アドルフ・サックス国際コンクール第2位。現地メディアを通じて日本でもそのニュースが話題になる。指揮者山田和樹氏には「耕平は、1音を聴いただけで、ただ者ではないと思った！」、ボストンポップスオーケストラの音楽監督であり指揮者であるKeith Lockhartには「サクソフォンのこんな音聴いた事がない。目が飛び出るほど驚いた！」と言わしめた。現在、国内若手アーティストの中でもトップの位置をしめ演奏活動のみならず、NHK-FM「×（かける）クラシック」の司会やテレビ「題名のない音楽会」「情熱大陸」など、メディアへの出演も多い。17年度第28回出光音楽賞、18年第9回岩谷時子賞奨励賞受賞。デビュー以来、常に新たなプログラムにも挑戦し、サクソフォンの可能性を最大限に伝えている。音楽以外にも鉄道と車をこよなく愛し、深く追求し続けている。
http://uenokohei.com

福本茉莉　Mari FUKUMOTO（オルガン）

福本茉莉は現代を代表するオルガニストの一人である。目下、主要なオルガンの数々で精力的に演奏活動を繰り広げ、世界の様々なコンサートホールに招聘されている。ソリストとして、著名なオーケストラ（京都市交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、スロヴァキア放送交響楽団、ヴロツワフ・バロックオーケストラ）などと協演、2020/21 年のシーズンには、ポーランドのヴロツワフ国立音楽フォーラム（NFM）のアーティスト・イン・レジデンスを務めた。

12 歳でオルガンを始め、2005 年に東京藝術大学に入学、2011 年にドイツのハンブルク音楽演劇大学でW.ツェーラーの門下に入る。武蔵野市国際オルガンコンクール、ニュルンベルク国際オルガン週間コンクール等で優勝し、2014 年にナクソス・レーベルから幅広い様式が盛り込まれたデビューアルバムを発表。2022年12月には最新CD（パスカル・ロフェ指揮、NFM ヴロツワフ・フィルハーモニー管弦楽団）が発売された。

2023年夏学期までヴァイマール・フランツ・リスト音楽大学にて教会音楽科常勤講師を務め、現在はドレスデンの聖母教会において、空席オルガニストの首席代理を務めている。

photo:©Sonja Werner

曲目

サン=サーンス：交響詩《オンファールの糸車》op.31

曲目解説
デュビュニョン：アルトサクソフォン協奏曲 op.89《英雄的》(2021)［上野耕平委嘱作品／世界初演］

曲目解説
サン＝サーンス：交響曲第3番ハ短調 op.78《オルガン付》

曲目解説

サン＝サーンス：交響詩《オンファールの糸車》op.31

　86歳という当時としては長い生涯を送ったカミーユ・サン=サーンス（1835～1921）は、その晩年にはフランス音楽界の保守の象徴とみなされた。しかし、サン=サーンス自身がロマン・ロラン（小説家／1866～1944）へ書き送っているように、彼は時の流れのなかで「先祖」となってしまった、かつての「未来」であった。
　サン＝サーンスがまだ「未来」であった頃に残した足跡のひとつに、フランスへの交響詩の「輸入」が挙げられる。フランツ・リストを敬愛していたサン＝サーンスは、リストが生み出したこの新しいジャンルに関心を示し、自らも交響詩を作曲しようと思い立った。1871年に完成した《オンファールの糸車》は、サン＝サーンスの最初の交響詩であると同時に、フランス人の作曲家によって発表された最初の交響詩となった。
　《オンファールの糸車》は、1872年4月14日にジュール・パドゥルー（1819～87）のコンセール・ポピュレールによって初演された。この作品はパリの聴衆からの支持を得ることはできなかったものの、サン＝サーンスによってもたらされた交響詩は、以後フランスの管弦楽の重要なジャンルとなっていく。サン＝サーンスは1877年までの6年間にさらに3曲の交響詩（《ファエトン》《死の舞踏》《ヘラクレスの青年時代》）を完成させ、多くの作曲家たちが、サン＝サーンスに刺激を受けて交響詩に取り組んだ。
　オンファールはギリシャ神話に登場するリディア（小アジア、現在のトルコ）の女王。ヘラクレスは友人イピトス殺害の罪を償うために、3年間奴隷としてオンファールに仕え、糸紡ぎの仕事に従事したが、次第にオンファールの虜となり、ふたりは3人の子をもうけたという。サン＝サーンスは、ヘラクレスを心身ともに支配したオンファールに、自らのミューズであった女性作曲家、オーギュスタ・オルメス（1847～1903）の姿を重ね、この作品を捧げている。
　《オンファールの糸車》は、短い序奏付きの3部形式からなる。冒頭から登場する6連符のパッセージは糸車が回転する様子を描いており、作品全体を通して幾度となく繰り返される。第1ヴァイオリンとフルートが奏する8分の6拍子の優雅な主題は、オンファールを象徴するもの。嬰ハ短調の中間部に入ると、ヘラクレスの苦悩が低音楽器によって重々しく歌われる。経過部でオーボエをはじめとする木管楽器が惨めな英雄をからかう女王の姿を表すと、序奏が回帰し、オンファールの主題が4分の2拍子で軽やかに再現される。糸車のモチーフが徐々に弱まると、最後は第1ヴァイオリンの高音によって、交響詩は静かに閉じられる。
（八木宏之）

作曲年代	1871年
初　　演	1872年4月14日　パリ　ジュール・パドゥルー指揮　コンセール・ポピュレール
楽器編成	ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、サスペンデッドシンバル、トライアングル、大太鼓、ハープ、弦楽5部

アルトサクソフォン協奏曲 op.89《英雄的》(2021)［上野耕平委嘱作品／世界初演］

　私が初めて上野耕平さんにお会いしたのは、2017年5月、パリにおいてである。彼はサクソフォン協奏曲の新作を求めていたのだが、2013年4月に東京で演奏された私の作品、2台ピアノと2つのオーケストラのための《バトルフィールド協奏曲》を聴いた印象が強く残っており、もう4年間も私への委嘱を考えてきたとのことだった。
　その後2018年6月に、今度はピカルディにある私の自宅を耕平が訪ねてくれた。私たちは作品について話し合いを始めた。彼はアルトサクソフォンで技術的にどんなことができるかを実際に演奏しながら私に教えてくれ、私はたくさんのアルトサクソフォンによる音楽や耕平の録音を聴き、楽器に慣れ親しんでいくことから始めた。というのも、私はこれまでこの楽器のために作曲したことはなく、作曲するならば本当に特別なものを書きたいと思ったからだ。私は耕平の信じがたいほどの才能に強く感銘を受け、彼がどれだけ私の作品に期待を寄せているかも分かっていたので、私はアイディアを振り絞り、知りうる限り最高に英雄的な協奏曲をアルトサクソフォンのために書こうと考えた。
　しかし、2020年9月まで私は作曲を始められなかった。新型コロナウイルスが猛威をふるい、それが音楽界にもたらしたあらゆる問題に私は動揺してしまったのだ。それでも2021年3月27日にショート・スコアを書き上げ、5月11日にオーケストレーションを終えた。

　第1楽章　Modéré（中庸の速さで）
　この協奏曲は第1主題（全曲の主要主題）（譜例1）で幕を開ける。オーケストラ全体は広い音域の和音を鳴らしながら加速し、高音域と低音域の楽器が反行する音型を奏でる。

【譜例1】

　この短くもドラマティックなオープニングに続いて、molto lento（非常に遅く）からサクソフォンが第1主題を奏で、弦とハープを伴いながら、レチタティーヴォのような導入を形成する。このゆったりとしたパッセージを経て、サクソフォンは第2主題（短2度―短3度―短2度―短3度という動きをもつ6音モードを使用している点で第1主題と関連がある）をゆったりと、次第に加速させて提示する（譜例2）[1]（以下、[ ]の数字はスコアに記された練習番号）。

【譜例2】

　サクソフォンが2つの主題に基づいてメリスマティックに（訳注：言葉の1音節に複数の音符を当てる歌唱法のこと）即興的なフレーズを奏でてゆき、短いクライマックスに到達したあと、a tempo moderato（中庸の速さで）から全奏が続く[2]。そこからこの第1楽章の主要部であるAllegro tranquillo（穏やかにやや速く）へと入る。サクソフォンは各小節の終わりで第2主題の引用を示しながら、反復音によって無窮動の動機を奏でる（譜例3）。

【譜例3】

　この急速な動きは、すでに提示された2つの主題へと発展し、技巧的なパッセージと穏やかで表情豊かなパッセージとを代わる代わる提示して雰囲気に変化をもたらす。サクソフォンが上行するアルペッジョと高音域でのトリルによって短いクライマックスを形成したあと、f—ffの長い全奏となる[9]。やがて徐々に落ち着きを取り戻し、3連符による波のような装飾的音型の上で、ソリストは第2主題に基づく歌のような旋律を奏でる[10-14]。クレッシェンドのあと、反復音による荒々しい無窮動の音型が巨大な全奏によって舞い戻り[15]、サクソフォンは急速なスケールを奏でる。
　3連符がその流れを止め、シンコペーションのリズムとともに第1主題が再現される[16]。音楽は次第に激しさを増し、poco piú animato（やや快活に）[17-19]からは細かな装飾をまとった第1主題が、低弦のファンキーなリズムを伴って提示され、第2主題に基づくリズミカルなパッセージへと達する[20]。音楽はさらに興奮を高めて、長いグルーヴィーなパッセージを奏で、サクソフォンはシンコペーションのアルペッジョを提示し[21-22]、極端に速いスケールを奏でる[23]。大音量の全奏による第2主題とともにサクソフォンが一連のトリルを吹いたあと、ソリストは短いカデンツァに入り、サクソフォンが出せる最高音の一つ、A♭6へと達する。第2主題に基づく全奏が、[20]ですでに提示されたように続く。第1主題に基づくコーダのあと、この楽章は大きく倒れ込むようにして終わる。

　第2楽章　Lent et expressif（ゆっくりと表情豊かに)
　弦がそれぞれ2声部に分かれながら弱音器を付けた状態で、官能的な第3主題を非常に静かに奏でて開始。サクソフォンがそれに続く（譜例4）。

【譜例4】

　この主題はチェロとコントラバスがピッツィカートで奏でるシチリアーナ風のリズムを持った音型（譜例5）によって強調される。これを第3主題ｂと呼ぶ。

【譜例5】

　第3主題は展開し、装飾され、短いクライマックスを迎える。続いてun peu plus de mouvement（やや速く）から第4主題（譜例6）がチェロ独奏によって非常に表情豊かに奏され[28]、低音域の擬似ロマン主義的なハーモニーを伴う。

【譜例6】

　第4主題の長い展開のなかで曲想は情熱と激しさを増してゆき[29-33]、第1主題のいくつかの要素（リズム、冒頭の3度下行、末尾の3連符）も伴う。速いテンポで第4主題に基づく長い全奏に達し、大きく下行するスケールへと加速してゆく。続いてソリストのカデンツァに入る。カデンツァは第4主題に基づいた即興風の旋律に始まり、次に第3主題と第3主題ｂとを結合させる。ここでは弦楽器のピッツィカートと似た音を出すスラップタンギング奏法が用いられる。このカデンツァは一種のレチタティーヴォのような形で、ところどころでオーケストラを伴う。
　徐々に全奏へと回帰してゆくが、まだ第3主題は鳴り続け[36-37]、そこから第4主題の展開へと進み[37-39]、非常に静かで表情豊かな曲想となる。ここでは第4主題の要素はわずかに残されるにとどまる[40]。第4主題とピッツィカートによる第3主題ｂのシチリアーナ風リズムとの組み合わせがコーダを形成し、この第2楽章を締めくくる。

　第3楽章　Moderato（中庸の速さで）
　フィナーレはこの協奏曲の冒頭で提示された「壮大な幕開け（grand opening）」と同様に開始するが、最初から独奏サクソフォンが加わる。第1・第2主題が劇的に回帰して、ソリストは再びメリスマティックに旋律を奏でる。ソリストの強烈なトリルの下行分散和音によってそれが収束すると、Rapide（急速に）へとソリストが無伴奏で先導し、ウォーキングベース（編集部注：主にジャズで用いられる、歩くような雰囲気のバス進行）[43]を模倣した音型をスラップタンギングで奏する。オーケストラは第5主題となるジャズ風の主題（譜例7）によって応答する。

【譜例7】

　ここからはコントラバスとチェロがウォーキングベースを引き受け、ソリストは数小節あとから加わる。音楽は次第にビッグバンド風の主題へ進み、フレーズの終わりはコミカルなグリッサンドを伴う[45]（譜例8）。
【譜例8】

　このウィットと驚きに満ちた楽しい音楽は、2つの主題の変奏を提示しながら、次第に熱狂的なパルスを帯びてゆく。さらに興奮を増してfffの大きなクライマックス[51-52]に到達する。続いて第2楽章を想起させるゆったりとしたテンポLentoで、第3主題による再現部となり、低弦のピッツィカートが第3主題ｂで伴奏する。独奏サクソフォンが加わり、第4主題を奏でる[53]。
　曲想は情熱を帯びて、もう一つの短い再現部が「壮大な幕開け」[54]によって提示される。そのまま加速してテンポの速いコーダへと突入する。ジャズ風のウォーキングベースを伴って、全奏による第3主題ｂが最後に驚かせるように登場し、それがffで4回繰り返されて終わりを告げる。

（リシャール・デュビュニョン　ランティニーにて／2021年）
（訳：飯田有抄）

作曲年代	2020～21年
初　　演	2022年1月22日　東京　サントリーホール（当演奏会）上野耕平独奏　大友直人指揮　東京都交響楽団
楽器編成	フルート2（第2はピッコロ持替）、オーボエ2、クラリネット2（第2はバスクラリネット持替）、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、テューバ、ティンパニ、ハープ、弦楽5部、独奏アルトサクソフォン

リシャール・デュビュニョン
　1968年、ローザンヌ（スイス）生まれ。モンペリエで歴史を学んだ後、20歳で音楽を始め、1992年にパリ音楽院へ入学。さらに英国王立音楽院で学んだ。2002年にフランスへ戻り、ボザール・アカデミーからピエール・カルダン賞を受賞。2015年、SACEM（作詞作曲出版協会）からグランプリを受けた。2016/17シーズンにヴィンタートゥール・ムジークコレギウムのコンポーザー・イン・レジデンスを務めた。
　『ニューヨーク・タイムズ』紙が「遊び心のあるモダンな感性」と評した彼の作品は、多くの音楽家によって演奏されている。代表作はアルカナ・シンフォニーズ（2001-07）、ヴァイオリン協奏曲（2008）、2台ピアノと2つのオーケストラのための《バトルフィールド協奏曲》（2011）、交響詩《Helvetia, Alpine Flight》（2013）、チェレスタのオブリガートを伴うピアノ協奏曲《Klavieriana》（2015）、カプリース第3番《Caprice Romain》（2016）、カプリース第4番《Es muss sein!》（2017）など。
　また彼はコントラバス奏者でもあり、モーリス・ベジャール・バレエ団での自作品の演奏やパリ・オペラ座でも自由契約で出演している。2021年1月より、パリ高等裁判所の音楽関連法の専門担当を務める。

サン＝サーンス：交響曲第3番ハ短調 op.78《オルガン付》

　作曲家としては楽壇を牽引する立役者。ピアノやオルガンは超一流の腕前。おまけに詩作や数学や自然科学の分野でも玄人はだし。カミーユ・サン＝サーンス（1835～1921）こそは、往時のフランスきっての“総合的文化人”だった。おなじみの組曲《動物の謝肉祭》が、持ち前の知性とユーモアとエレガンスを寛いだ形で伝えるものだとすれば、同じ1886年に生まれた交響曲第3番は、彼のシリアスな面を何よりも雄弁に示す傑作である。
　曲はロンドンのフィルハーモニック協会の委嘱によって書かれ、完成後にはサン＝サーンス自身が「持てるもの全部をつぎこんだ。これほどの達成感はもう得られまい」と語っている。そして実際、彼がこのジャンルに舞い戻ることは二度となかったし、盛り込まれた着想は確かに多彩を極める。
　まず耳にも明らかなのは、副題の由来でもあるオルガン、そしてピアノまで用いて、オーケストラの音色のパレットを広げたこと。次に構成原理として導入された“循環主題”という手法。作品の核をなす主題が絶えず変容を伴いながら登場して音楽の流れを導く書式は、フランツ・リストの交響詩、ひいてはリヒャルト・ワーグナーの楽劇と共通点を持つ。それを標題音楽や舞台作品ではなく、交響曲にサン＝サーンスは応用したわけである。その点で大きな影響を受けたリストに、サン＝サーンスがこの曲を献呈しようと思い立ったのも納得のいく話だ。彼の申し出は感謝の返事とともに首尾よく受理されたのだが、しかしそのリストは初演から2ヵ月後の1886年7月に世を去ってしまい、初版譜の刊行時には「フランツ・リストの思い出に捧げて」という言葉が掲げられることとなった。
　さらに形式面もユニーク。従来の交響曲の枠組みに沿っているのは明らかなのだが、以下のとおり、それぞれ対照的な図式を描く2楽章からなる形に作品がまとめられている。これは前年の1885年に初演された《ヴァイオリン・ソナタ第1番》ニ短調 op.75とも非常に類似性の強い構成だ。前記のようにワーグナー的な美学からの影響を受けながらも、そこからさらに独自の道を究めるべく、新たな時代のフランスにふさわしい器楽作品のフォルムを追求していたサン＝サーンスの姿まで浮かび上がってくるように思う。
　第1楽章　前半部はアダージョの短い序奏と、ソナタ形式のアレグロ・モデラートからなる。後者に入ってすぐ弦楽器の奏でる第1主題が、全曲に波及する循環主題である（最初のうちは細かくリズムを分割し、本来の姿を曖昧にしか見せない巧妙な筆さばき）。そこに序奏の動機が対置されていく。波打つような動きの第2主題は木管楽器が提示。各主題の展開と再現を経て次第に音勢が弱まると、オルガンがペダル音を含むハーモニーで静かに登場し、後半部ポコ・アダージョが開始。これは緩徐楽章にあたり、それまで抱えていた内面の相克に宗教的浄化が与えられていくような趣だ。
　第2楽章　前半部はスケルツォに相当。循環主題も活用したアレグロ・モデラートと、快活にして色彩感も豊かなプレストが交替する形で進む。後者が2度目に現れると、新しい重要なモチーフを用いた静かな推移句へと流れ込む。続く後半部は、まずマエストーソのテンポにより、オルガンの輝かしいコードを伴いながら祝典的なムードで幕を開ける。アレグロに転じてからは循環主題も確信に満ちた表情で歩を進め、先行楽章の動機群も様々な形で回帰を果たす。すべての不安を払拭した後のコーダで待ち受けているのは、壮麗無比なクライマックス。
（木幡一誠）

作曲年代	1886年
初　　演	1886年5月19日　ロンドン　作曲者指揮
楽器編成	フルート3（第3はピッコロ持替）、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、トライアングル、ピアノ（連弾）、オルガン、弦楽5部

【当日券情報】プロムナードコンサートNo.405（12/1up）
都響主催公演では、都響WEBチケットで当日券を販売いたします。
　【販売時間】
公演当日10:00～開演時間の30分前まで。　※無くなり次第終了
　【販売席】
全席種販売予定
　【販売方法】
都響WEBチケット（座席選択可）
※会場での販売はございません。
　【受取・支払方法】
①セブンイレブンで発券
　・セブンイレブンでお支払い（クレジットカード、現金でお支払いただけます）
　・都響会員割引がご利用いただけます。　
※会場近くにセブンイレブンが無い場合もございます。事前にご確認の上、ご来場く
ださい。（東京文化会館とサントリーホールは近くにございません）
②電子チケット（スマートフォンとLINEアプリが必要です）
　・クレジットカードでオンライン決済
　・都響会員割引・U-25割引がご利用いただけます。

聴きどころ

2022年1月に予定されながらコロナ禍で延期となっていた上野耕平委嘱によるデュビュニョンのサクソフォン協奏曲世界初演と、サン=サーンスの名曲の組み合わせを大友直人の指揮でお届けします。サン=サーンス第3交響曲のオルガン独奏には、ドイツを拠点に国際的な活躍を続ける福本茉莉を迎えます。武蔵野市国際オルガンコンクール、ニュルンベルク国際オルガン週間コンクールなど数々の著名コンクールでの優勝歴があり、古典から現代の新作まで膨大なレパートリーを持つ福本の才気あふれる演奏にご期待ください。