定期演奏会 Cシリーズ

第891回定期演奏会Cシリーズ

終了日時：2019年11月16日（土） 14:00開演（13:20開場）

場所：東京芸術劇場コンサートホールホール案内座席表

弾き語られる「革命」、刻まれる永遠の記憶。

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出演

指揮／エリアフ・インバル
ヴァイオリン／ヨゼフ・シュパチェク

プロフィール一覧

エリアフ・インバル　Eliahu INBAL（桂冠指揮者）

1936年エルサレム生まれ。これまでフランクフルト放送響（hr響）首席指揮者（現名誉指揮者）、ベルリン・コンツェルトハウス管首席指揮者、フェニーチェ劇場（ヴェネツィア）音楽監督、チェコ・フィル、台北市立響首席指揮者などを歴任。
都響には1991年に初登壇、特別客演指揮者（1995～2000年）、プリンシパル・コンダクター（2008～14年）を務め、2回にわたるマーラー・ツィクルスを大成功に導いたほか、数多くのライヴCDが絶賛を博している。『ショスタコーヴィチ：交響曲第4番』でレコード・アカデミー賞〈交響曲部門〉、『新マーラー・ツィクルス』で同賞〈特別部門：特別賞〉を受賞した。仏独政府およびフランクフルト市とウィーン市から叙勲を受けている。渡邉曉雄音楽基金特別賞（2018年度）受賞。
2014年4月より都響桂冠指揮者。マーラーの《大地の歌》、ブルックナーの交響曲第3番（1873年初稿）・第4番《ロマンティック》（1874年稿と1878/80年稿）・第8番（1890年第2稿）、ベルリオーズの《幻想交響曲》、バルトークの《管弦楽のための協奏曲》、ショスタコーヴィチの交響曲第5番・第7番《レニングラード》・第8番・第11番《1905年》・第12番《1917年》・第15番、バーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》などで精力的な演奏を繰り広げ、話題を呼んでいる。

ヨゼフ・シュパチェク　Josef ŠPAČEK（ヴァイオリン）

1986年チェコ生まれのヨゼフ・シュパチェクは、ジュリアード音楽院でイツァーク・パールマンに、カーティス音楽院でイダ・カヴァフィアンとハイメ・ラレードに、そしてプラハ音楽院にてヤロスラフ・フォルティーンに学ぶ。2008年カール・ニールセン国際ヴァイオリン・コンクール3位、12年エリザベート王妃国際コンクールのファイナリスト。
2011年、名門チェコ・フィルハーモニー史上最も若いコンサートマスターに就任。2016年1月、同団の「アソシエート・アーティスト」に就任。2019/20シーズンをもってコンサートマスターの職を離れ、ソロ活動に専念している。
ソリストとして、パリ管弦楽団、フィラデルフィア管弦楽団、バンベルク交響楽団、ヘルシンキ・フィル、ロッテルダム・フィル、トリノRAI管、メルボルン交響楽団、マレーシア・フィル、クイーンズランド響等から招かれ、ビエロフラーベク、フルシャ、ゲルギエフ、エッシェンバッハ、ホーネック、ビシュコフ、メルクル、インバルといった指揮者と共演。
2006年に最初のCDをリリースして以来、すでに4枚のCDを発表している。
使用楽器は、Ingles & Haydayから貸与された1732年製のグァルネリ・デル・ジェス
“Le Brun;Bouthillard”。

曲目

ショスタコーヴィチ：ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 op.77

曲目解説
ショスタコーヴィチ：交響曲第12番ニ短調 op.112 《1917年》

曲目解説

　ちょうどこの曲が完成する直前の1948年2月、ときのソ連政府によって“形式主義的退廃芸術”の糾弾を旨とする、いわゆるジダーノフ批判の口火が切られた。その矢面に立たされたドミトリー・ショスタコーヴィチ（1906〜75）が、先鋭的な音楽語法も巧みに（能ある鷹の爪よろしく）盛り込んだ新作の発表に躊躇を覚えたとしても無理はない。歌曲集《ユダヤの民族詩より》（1948）や、同曲からの引用を含む弦楽四重奏曲第4番（1949）ともども、独裁者スターリンが1953年に没して“雪解け”を迎える時期までしばしお蔵入りすることとなる。
　ヴァイオリン協奏曲第1番もそうした作品の一つで、初演を見たのは完成から7年後の1955年。そこでソリストを務め、出版譜の監修にもあたったダヴィッド・オイストラフ（1908〜74）に曲は献呈されている。
　第1楽章「夜想曲」（モデラート）は自由な三部形式。深く内面へ沈潜する楽想と、浮遊感をたたえた調性のあしらい方が印象深い。第2楽章「スケルツォ」（アレグロ）は辛辣なユーモアをたたえた主部と、乱痴気騒ぎ一歩手前の中間部からなる。開始から1分強を経過した箇所で木管が提示し、ヴァイオリンが重音で確保する旋律「Dis−E−Cis−H（レ♯−ミ−ド♯−シ）」は、交響曲第10番（1953）や弦楽四重奏曲第8番（1960）で用いられた、作曲者のイニシャルを音名化した動機「D−Es−C−H（レ−ミ♭−ド−シ）」の先駆体ともみなせよう（この曲では4番目の音が半音低い位置関係にあるが）。
　第3楽章「パッサカリア」（アンダンテ）は雄渾なホルンの旋律を従えながら低弦とティンパニがバス声部で主題を提示し、その主題を反復する過程で8つの変奏が続く。楽章の最後に置かれた長大なカデンツァが第2楽章の動機も回想しながら高揚を重ねると、ティンパニの一撃によって第4楽章「ブルレスク」（アレグロ・コン・ブリオ）へ流れこむ。民俗舞踏風のリズムが粗野なまでの生命力を発散させる、自由なロンド形式の終曲。
（木幡一誠）

作曲年代	1947年6月〜1948年3月
初　　演	1955年10月29日　レニングラード（現サンクトペテルブルク）ダヴィッド・オイストラフ独奏　エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル
楽器編成	フルート3（第3はピッコロ持替）、オーボエ3（第3はイングリッシュホルン持替）、クラリネット3（第3はバスクラリネット持替）、ファゴット3（第3はコントラファゴット持替）、ホルン4、テューバ、ティンパニ、タムタム、シロフォン、タンブリン、ハープ2、チェレスタ、弦楽5部、独奏ヴァイオリン

　1960年6月に推挙を受け、翌年9月の党会議で正式に共産党員となったショスタコーヴィチ。意志にそぐわぬ入党と引き換えにレニングラード音楽院へ復職を果たし、1961年12月には交響曲第4番の初演が25年の時を経て実現する。
　1961年8月に完成させた、“10月革命と、その指導者レーニンの思い出に捧げる”内容の交響曲第12番は、いわば彼が支払った音楽的代償だろうか。「血の日曜日」事件を扱った交響曲第11番《1905年》（1957年）とはペアをなす存在で、標題を持つ4つの楽章が切れ目なく続く構成も共通しているが、前作より規模は小さく描写性も控え目で、主要主題を循環形式風に配する職人的技法が際立った印象を与える。
　その主題群を相互に（音程的な骨格によって）結びつける機能を果たし、曲の形式分節点に顔を出す重要な存在が、以下文中の［C］の動機。これがソ連の最高指導者であったスターリンの名前に基づくもの（ヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・スターリンをキリル語表記し、イニシャルをドイツ音名に置換）という説が研究者によって唱えられている。ロシア革命礼賛という表のプログラムとは別進行による独裁者批判を託した、二層構造のシンフォニー。そんな音楽をショスタコーヴィチが何食わぬ顔で書き上げたとしても確かに不思議ではない。
　第1楽章「革命のペトログラード」（モデラート〜アレグロ）の標題は、1914年から24年までサンクトペテルブルクが抱いていた都市名に由来。レーニンが労働階級への権力移行を主張する「4月テーゼ」を起草した街である。
　全曲の冒頭から低弦で提示される序奏主題［A］。ソナタ形式の主部に入ると、その変形による第1主題がファゴットに登場。やはり低弦が導入する第2主題［B］はベートーヴェンの“歓喜の歌”（もしくはブラームスの交響曲第1番の終楽章第1主題）にも似た装いだ。再現部は第2主題で始まるが、その直前に弦楽器がピッツィカートで「Es−B−C（ミ♭−シ♭−ド）」という動機［C］を導入。この［C］がコーダではニ長調のコードと対置され、一種のアウフヘーベン（止揚）的な効果を生む。終楽章の大詰めにしても同様である。
　そのコーダから弦楽器のピッツィカート（［C］の変形）と打楽器のみが残る形で第2楽章「ラズリーフ」（アダージョ）が始まる。標題はペトログラード近郊の湖の名前で、レーニンはそこで革命のプランを練った。全体的に思索的な雰囲気の濃い楽章で、主部は低音域の反復音形と聖歌風の旋律、さらには［B］から派生した動機が対位法的にからみあい、随時［C］（とその変形）が合いの手を挟む。中間部ではフルートとクラリネットが新しい動機を導入。
　この動機から導かれていくのが、続く第3楽章「アヴローラ」（アレグロ）の主要主題だ。アヴローラとは巡洋艦オーロラ号のことで、革命最大の攻防戦となる冬宮への進入に際し、口火となる援護砲撃を行ったとされる（その記録の信憑性は現在疑問視されているが）。楽章はティンパニの連打で開始され、上記の動機を弦楽器がピッツィカートで慌ただしく弾き連ねる。やがて［B］が頭をもたげた後、打楽器の炸裂を経て音楽は苛烈の度を増す。
　それが最高潮に達したところで第4楽章「人類の夜明け」（アレグレット〜モデラート）へと移行。ホルンが喨々と吹き鳴らす第1主題が全合奏で盛り上がったところに［C］が姿を現し、フェルマータの沈黙を経てヴァイオリンが舞曲風の第2主題を奏でる。この2つの主題の展開と再現の狭間に先行楽章の様々な素材が走馬灯のごとく回帰し、最後は［A］［B］［C］と第4楽章の第1主題が統合される形でクライマックスに到達。
（木幡一誠）

作曲年代	1960年（秋頃）〜1961年8月
初　　演	1961年10月1日　レニングラード（現サンクトペテルブルク）エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮　レニングラード・フィル
楽器編成	フルート3（第3はピッコロ持替）、オーボエ3、クラリネット3、ファゴット3（第3はコントラファゴット持替）、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、小太鼓、シンバル、大太鼓、タムタム、弦楽5部

当日券　S・A・B　計70枚程度予定。12:45より会場にて発売。
※残席がある場合のみ、休憩（14:45頃）より「おそ割」販売予定。休憩時からのご入場で1回券定価の50％OFF。（11/15up）

聴きどころ

インバルは2011年にも今回と同じプログラムを指揮しているので、8年ぶりの再演となります。ヴァイオリン協奏曲第1番は、ショスタコーヴィチの作品の中でも屈指の傑作であるのみならず、こんにち最も演奏される20世紀のヴァイオリン協奏曲の一つ。チェコ・フィルのコンサートマスターも務めたことがあるヨゼフ・シュパチェクが切れ味鋭い演奏で挑みます。第12交響曲《1917年》はレーニンによるロシア革命を題材にしたドラマティックなシンフォニー。あまりにも革命賛美的な内容のため、作曲当時は西側から「肥大した映画音楽」などと批判されましたが、現在は人気曲の一つとなりつつあります。なお、このコンサートに先立つ11月11日の定期演奏会Aシリーズでは、やはりインバルの指揮で、一連のロシア革命のきっかけともなった「血の日曜日」事件を扱った第11交響曲《1905年》が演奏されます。あわせてお楽しみください。