6/28(金)C定期、6/29(土)都響スペシャル
7/4(木) B定期、7/5(金) 都響スペシャル
Jakub HRŮŠA

Jakub HRŮŠA

フルシャ、リターンズ!

 2010年度から2017年度まで8年間にわたり都響首席客演指揮者を務め、今やバンベルク響首席指揮者をはじめ、2025/26シーズンには英国ロイヤル・オペラ・ハウス音楽監督に就任するなど躍進が続くヤクブ・フルシャが、7年ぶりに都響指揮台に登場! 当初予定されていた2020年12月がコロナ禍でキャンセルとなったこともあり、待望久しい共演です。
 C定期+都響スペシャルはチェコ名曲選。2024年が生誕200年に当たるスメタナの歌劇『リブシェ』序曲は、堂々たるファンファーレで始まる荘厳な音楽。ヤナーチェクの歌劇『利口な女狐の物語』のエッセンスをオーケストラだけで味わえるようフルシャ自身が編んだスケールの大きな組曲は、この演奏会の白眉と言ってもいいでしょう。そして、ドヴォルザークの第3交響曲は、ワーグナーからの影響のもとで書かれた、魅力的な楽想を持つ3楽章仕立ての野心作です。
 B定期+都響スペシャルは、ブルックナー生誕200年を記念しての第4交響曲。バンベルク響との録音も経て自信を深めたフルシャのブルックナーにご期待ください。コンサート前半は、フルシャが共演を熱望してきた五明佳廉とのブルッフがロマンティックな気分を盛り上げます。

  • フルシャ、スメタナの生地でオペラ《リブシェ》
    生誕200年 チェコ・フィルと記念碑的名演

    文・写真/藤盛一朗(MOSTLY CLASSIC編集長)

     世界を舞台に躍進する指揮者、ヤクブ・フルシャが6月16日、スメタナの生地、チェコ・リトミシュルでチェコ・フィルの指揮台に立ち、オペラ《リブシェ》を振った。スメタナの生誕200年、ドヴォルザークの没後120年を象徴する「チェコ音楽年」のハイライトとなる行事。7年ぶりに都響を指揮する直前のフルシャの表情を現地からお伝えする。

    フルシャ、スメタナの生地でオペラ《リブシェ》
    生誕200年 チェコ・フィルと記念碑的名演

    音楽祭会場の一つ リトミシュル城© Ivan Krejza     プラハから列車とバスを乗り継いで東に約2時間半。スメタナが1824年に生まれた町、リトミシュルは、《リブシェ》上演の舞台にふさわしい。フルシャは、チェコ第2の都市、ブルノ出身。2019年の「プラハの春」音楽祭では、首席指揮者を務めるバンベルク交響楽団を率い、《わが祖国》を指揮した。近年はベルリン・フィル定期やウィーン・フィル定期の常連となり、2025/26年シーズンには英国のロイヤル・オペラの音楽監督に就任することが決まっている。スメタナ生誕200年の特別な年にチェコの国民的オペラ、《リブシェ》の指揮を委ねられたのは自然といえる。
     管弦楽は、チェコ・フィル。歌手には題名役のカテジナ・クニェジーコヴァをはじめ、チェコを代表する歌手8人が顔をそろえた。前評判は高く、チケットは完売した。
    《リブシェ》の上演会場に向かう人々  フルシャの指揮は、大仰な表現やジェスチャーで大向うの受けを狙うのでなく、誠実そのもの。金管の輝きや、チェコ・フィルならではの弦の芳醇な響きが自然に引き出される。木管は、ホルン群をはじめ金管、弦と溶け合い、音楽の表情を深める。
     《リブシェ》は、オーストリア・ハンガリー帝国の統治下、ドイツ語が第1言語だった時代の作品。民族感情の高まりを受け、国民の寄付でプラハに1881年に開館したオペラの殿堂、国民劇場のこけら落とし作品としてチェコ語台本で初演された。対立する者の和解がテーマであり、神話上の人物、リブシェの予言を通じ、困難を乗り越えて輝くチェコの未来が歌われる。3幕、3時間にわたる大作だが、まったく弛緩せず、全曲を聴かせてしまうのは、やはりまず、フルシャの手腕による。
     チェコ名物のビールやモラビア地方のワインが並ぶ終演後のレセプション会場で、フルシャは「都響とも《リブシェ》を演奏するのです」と笑顔を見せた。都響定期では序曲に限られるが、歴史的な演奏の空気感がそのまま東京に運ばれることになるだろう。さらに、フルシャの生まれたブルノゆかりのヤナーチェクの《利口な女狐の物語》大組曲(フルシャ編曲版、日本初演)、さらにドヴォルザークの交響曲第3番が演奏される。8番でも9番でも7番でもなく、あえて3番というところにフルシャの意気込みがのぞく。
     都響には、チェコスロバキア(当時)出身の名指揮者、ズデニェク・コシュラーやレオシュ・スワロフスキー、そしてフルシャとの多彩なチェコ音楽の演奏の歴史が刻まれてきた。首席客演指揮者時代より、一回りも二回りも大きくなったフルシャが、6、7月公演でどんな名演を生み出すか。今から胸の高まりを禁じえない。


    左:スメタナ博物館に保存されているスメタナのデスク
    右:初演当時のポスター

  • ヤクブ・フルシャ
    インタビュー

    取材・文/後藤菜穂子(音楽ライター)

    © Marian Lenhard

    都響との7年ぶりの共演に寄せて

     都響への久しぶりの登壇を前に、楽団へ寄せる思い、演奏する2つのプログラムなどについて、ヤクブ・フルシャにお話を伺いました。

    ※取材は2024年4月19日、東京~レイキャビク(アイスランド)のリモートにて行いました。

    都響との久しぶりの共演

    2017年度以来の都響への登場となりますが、まずは日本のみなさんへのメッセージをお願いいたします。

    都響首席客演指揮者としての最終公演
    ブラームス:交響曲第1番のカーテンコール
    (第845回B定期/2017年12月16日/サントリーホール)
    © Rikimaru Hotta
     都響との前回の共演から7年も空いてしまったことは、もちろん私が望んだことではありません。これほど長い期間空いてしまったことを残念に思っていますが、同時に私の中では都響とのコンサートの思い出はきわめて鮮明であり、7年もたったとは信じられないほどです。オーケストラのみなさんには「ふたたび都響に戻ってきたい」と伝えていましたから、それがようやく実現することを本当に嬉しく思っています。
     私にとって都響は日本での「アーティスティック・ホーム(芸術上の故郷)」であり――これまで約30もの公演を指揮してきました――、彼らとの関係を再び築き、絆を確かめ合いたいと思っています。今回、2つの多様で美しいプログラムを取り上げますが、私が都響時代にとくに嬉しかったのは、本当に多彩なプログラムを一緒に演奏できたことです――いわゆる定番のレパートリーをはじめ、知られざるチェコの作品やフランスもの、ロシアものまで。とにかく都響の旧友たちと再び関係を深め、またいつも私たちのコンサートを熱心に聴いてくださった都響の聴衆のみなさまと再会できることを楽しみにしております。

    チェコ音楽プログラム

    6月28・29日のプログラムではチェコ音楽を取り上げます。今年はスメタナ生誕200周年、ヤナーチェク生誕170周年、ドヴォルザーク没後120周年などのアニヴァーサリーが重なる「チェコ音楽の年」なのだそうですね。チェコではスメタナの200周年はどのように祝われていますか?

     スメタナはチェコのクラシック音楽文化の父といえる存在であり、大々的に祝われています。彼は管弦楽曲のみならず、室内楽やピアノ音楽、オペラなど多くのジャンルで作品を残しましたので、オーケストラや指揮者にかぎらず、すべての音楽団体や音楽家にとって大きなイベントです。
     私自身はチェコ・フィルとスメタナのオペラ『リブシェ』を――演奏会形式ですが――「プラハの春」(5月)とスメタナの生地で行われる「スメタナのリトミシュル」音楽祭(6月)で演奏し、同音楽祭のオープニング・ガラ公演も指揮します。またスメタナに関する国際学会も開催されますし、著名な作家パヴェル・コサティークによる新しい伝記も出版されたばかりで、今まさに読んでいるところです。実はこの本のオーディオ・ブックの朗読を引き受けることにしました。
     このようにチェコでは、今年はブルックナーの生誕200周年よりもスメタナのほうが祝われていますが、都響とはふたりの記念年を同時に祝うことができるのが大切かつ美しいことなのです。

    東京では『リブシェ』の序曲を演奏しますが、どんな作品ですか?

     『リブシェ』はとても興味深いオペラで、スメタナの生涯においてもっとも重要なオペラ・プロジェクトでした。みなさんもご存知の『売られた花嫁』は喜歌劇で、そうしたジャンルのオペラを作曲してほしいと思っていた人々の期待に応えたものでした。それに対して『リブシェ』は、ワーグナーの『ニーベルングの指環』と並べられるほど野心的な作品で――もちろん4晩かかるものではありませんが――母国の重要な神話に基づいた壮大なオペラなのです。スメタナ自身、この作品をオペラではなく「タブロー」と呼んだように、ストーリーにさほどドラマ性はないのですが、次々と場面が変わっていく壮大な規模の作品です。
     そして『リブシェ』の序曲のファンファーレの部分は、チェコでは大統領が臨席する公式行事の際にかならず演奏されるもので、とても壮麗で祝祭的な音楽です。おそらくオペラ自体、日本では上演されていないでしょうから、この序曲をもって日本のみなさんとスメタナのアニヴァーサリーを祝いたいと考えたのです。

    続いて、フルシャさんご自身の編纂によるヤナーチェクのオペラ『利口な女狐の物語』大組曲が演奏されます。この組曲を手がけた理由として、コンサートホールで演奏されるヤナーチェクのレパートリーを増やしたかったからと話しておられますね。

     その通りです。もうひとつの理由としてはヤナーチェクの場合、ワーグナーやスメタナ、R.シュトラウスやモーツァルト同様、作曲家としての最高傑作はオペラにあると思うんですね。でも演奏会にいらっしゃる聴衆はオペラにあまりなじみがなかったりするわけです。
     ブルノで長く活躍された指揮者、フランティシェク・イーレクは、「ヤナーチェクのすべてのオペラにはシンフォニックな論理があるのだけれど、切れ切れな場面や台本の影に隠れてしまっている」といつもおっしゃっていました。実際、私が『利口な女狐の物語』を指揮したときも、歌手が参加する前のオーケストラ・リハーサルで、歌がなくても十分音楽として成立していると感じていました。
     もちろん『利口な女狐の物語』の組曲はすでにいくつか存在しますが、私の組曲では音楽がストーリーの時系列で展開するので、オペラとしての流れをより感じていただけると思います。このオペラは踊りやパントマイムもあり、歌唱部分はシンフォニックな音楽の流れの上に書かれているので、そうしたすべてをまとめるように心がけました。軽妙で子どもっぽさのある冒頭から、ノスタルジックでロマンティックな結末まで、オペラ全体の雰囲気や感情を味わっていただければと思います。
     私は東京でまだオペラを指揮したことがありませんので、今回は歌がないとはいえ、こうした形でプログラムにオペラを組み込むことができ――しかも私自身の編曲で――たいへん嬉しく思っています。都響はオペラの演奏にも長けたオーケストラですから。

    ヤナーチェクのオペラはこれまで多く指揮されてきていますか?

     ええ、先だってチェコ・フィルと『利口な女狐の物語』を指揮したばかりですし、これまでにシカゴ・リリック・オペラで『イェヌーファ』、ザルツブルク音楽祭で『カーチャ・カバノヴァー』、ウィーン国立歌劇場とチューリッヒ歌劇場で『マクロプロス事件』、ブルノで『死者の家から』などを指揮しています。『運命』や『ブロウチェク氏の休暇旅行』など、まだ手がけていない作品もありますが。来年秋から音楽監督に就任する英国ロイヤル・オペラでも、ヤナーチェクのオペラを取り上げていく予定です。

    プログラム後半はドヴォルザークの交響曲第3番です。フルシャさんは都響時代には、ドヴォルザークの交響曲は指揮されませんでした。今回、初めて取り上げるにあたって第3番を選ばれた理由は?

     意図的に取り上げなかったわけではなく、交響曲第7~9番はチェコのオーケストラが来日する際には必ず演奏されますし、他のオーケストラでもよく聴けますので、私はチェコの音楽でもより珍しい作品を聴いてほしいと思って選曲していました。ヴァイオリン協奏曲や《スターバト・マーテル》などは取り上げましたし、パンデミックで中止になってしまいましたが、交響詩のプログラムも計画していました。今回、ドヴォルザークの交響曲を入れてはどうかという話になったので、あまり演奏されない曲にしませんか、と第3番をご提案したのです。私自身、第1番と第2番は指揮したことがないのですが、第3番はバンベルク交響楽団などとも演奏していて、とても聴衆の評判が良い作品です。後期の交響曲にくらべればすべての点でパーフェクトというわけではありませんが、指揮していて楽しいですし、3楽章構成ですこし短めなので、プログラム的にもバランスがよいと思います。
     そして、もうひとつ重要な点は、スメタナがこの曲の初演を指揮したことです。スメタナは若き作曲家のキャリアを指揮者として後押ししたのであり、ドヴォルザークにとって記念すべき日となったのです。
     第1楽章はドヴォルザークらしい美しい旋律に満ちており、第2楽章には和声進行の点で実験的な試みがみられます。そして終楽章はとても軽やかで、シューベルトかハイドンのフィナーレを思わせます。

    ドイツ・オーストリア音楽プログラム

    さて、7月4・5日の公演ではブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番とブルックナーの交響曲第4番《ロマンティック》を選ばれました。ブルッフのソリストの五明佳廉さんとはこれまでも共演されていますか?

    © Ian Ehm  ええ、「ブル・ブル・プログラム」ですね(笑)。五明さんとは何度も共演しており、何年も前からいつか東京で共演できたらよいね、と話しておりました。パンデミックでの公演中止を経て、ようやく夢がかないます。ブルッフについては、長さ的にも内容的にもブルックナーに合う協奏曲の中から五明さんに選んでもらいました。たしかに頻繁に演奏されますが、真の美しさをたたえた作品で、私自身、指揮するのがとても好きな曲です。その一方で、ブルックナーとの違いも十分ありますし、同じ19世紀ロマン派でも異なる作風をお楽しみいただけると思います。

    ブルックナーの交響曲第4番《ロマンティック》については、今回はコーストヴェット版の第2稿(1878/80年)を演奏されるということですね。

     はい、みなさんが通常親しまれている第4番の第2稿を、ベンジャミン・コーストヴェットの最新の校訂版を使って演奏します。ご存じのとおり、この交響曲には大きくわけて3つの稿があり、私は3つともバンベルク響と録音しました。なぜ今回第2稿を選んだかについて完全な答えはありません。なぜなら私自身は、多くの人々が批判する第3稿にも愛着があるからです。実際、コーストヴェットも、ブルックナーはおそらく第3稿をかなり気に入っていて、出版して後世に残したいと願っていたのではないかとおっしゃっています。他方で、初稿はモダンで急進的で、とても刺激的だと思います。
     正直なところどの稿も等しく好きなのですが、今回は珍しさを取るよりも、スタンダードな稿で演奏し、オーケストラとじっくり解釈を深めていきたいと思っています。

    フルシャさんはブルックナーの音楽とはどのような道のりを歩んでこられたのでしょうか?

     私が最初にブルックナーを聴いたのは、子どものころ、両親に連れられて行ったブルノのオーケストラの定期演奏会でした。最初のうちはその独自の響きに魅了されたのですが、なんども止まったり再開したりするのが我慢できなくて、途中から天井のライトの数を数えていましたね(笑)。ブルックナーの音楽の奥深さと美しさを発見したのは、学生時代でした。私の師であったビエロフラーヴェク先生はチェリビダッケの弟子でしたので、チェリビダッケの録音をよく聴きましたし、授業では交響曲第4番と第7番を学びました。
     プロの指揮者になってからも折々にブルックナーを取り上げてきましたが、なかなか自分が目指している演奏ができず、もどかしく感じていました。ようやく思うように指揮できるようになったのはバンベルクに来てからです――なぜなら彼らはブルックナーを愛し、ほぼ毎シーズン取り上げ、どう演奏すべきか知り尽くしているからです。ブルックナーを指揮するためには真のパートナーであるオーケストラが必要なのです。ブルックナーを独裁的に指揮することはできません。もちろん指揮者は方向性を示す必要はありますが、大部分はオーケストラのなかから有機的にでてこなければならないからです。一緒に呼吸し、フレーズを感じ、美しいサウンドを見出さなければならないのです。ブルックナーの奥深さを教えてくれたバンベルク響には感謝しかありません。
     このように私はブルックナーには主にドイツのオーケストラのサウンドで馴染んできたわけですが、都響もブルックナーを多く演奏してきていると思いますので、どういったコラボレーションになるのか、心から楽しみにしています。

    最後に、今後のご活動についてお聞かせください。2025年秋にロイヤル・オペラの音楽監督に就任後は、オーケストラとオペラのお仕事の割合は変化するのでしょうか?

     そうですね。これまではオーケストラ7割、オペラ3割ぐらいだったのが、それぞれ5割ずつぐらいになると思います。でもオーケストラのコンサートの指揮をやめることはありません。それは私にとって重要な活動ですから。ただ就任後しばらくはオペラが多めになる時期はあるかもしれません。パンデミックのあいだに中止になったオペラのプロジェクト――ニューヨークのメトロポリタン歌劇場やオランダ国立歌劇場など――もありましたし。バンベルク響とは2028/29年のシーズンまで契約を延長しましたので、しばらくはバンベルク響とロイヤル・オペラを両輪とし、さらにチェコ・フィルの首席客演指揮者も続けます。ロイヤル・オペラでは2027/28年のシーズンにリング・ツィクルスを指揮することになっており、今から期待で一杯です。

  • 東京都交響楽団に指揮ヤクブ・フルシャが帰ってくる

    文/飯尾洋一(音楽ライター)

    © Andreas Herzau

     かつて都響で首席客演指揮者を務めたヤクブ・フルシャが7年ぶりに帰ってくる。しかもプログラムはフルシャならではのチェコ音楽集。いやがうえにも期待が高まる。

    ヤクブ・フルシャが帰ってくる

    © Ian Ehm     チェコ出身のフルシャが都響の首席客演指揮者に就任したのは2010年のこと。就任時の記者懇談会で「都響とは初めてのリハーサルからお互いの気持ちが通じ合った」と語っていたことを思い出す。当時29歳のフルシャは、すでにヨーロッパで頭角をあらわしており、その力量は2018年まで続いた首席客演指揮者時代に存分に発揮されてきた。多くの人々の予想通り、フルシャは急速に活躍の場を広げ、現在はバンベルク交響楽団の首席指揮者を務める。
     2018年にはベルリン・フィルにデビュー。デビュー以上に驚嘆すべきなのは19年、21年、23年とくりかえし同楽団の指揮台に招かれ、狭き門の「常連」枠に収まっていること。25/26シーズンからは英国ロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督に就任することも決まっており、フルシャが時代を代表する指揮者のひとりになりつつあることを実感する。
     今回フルシャが用意したのは、スメタナの歌劇「リブシェ」序曲、ヤナーチェク(フルシャ編曲)の歌劇「利口な女狐の物語」大組曲、ドヴォルザークの交響曲第3番という凝ったプログラム。どれも聴く機会はかなり貴重だ。スメタナは今年生誕200年。「リブシェ」序曲冒頭の輝かしいファンファーレは、チェコの国家式典でも用いられている。ドヴォルザークの交響曲第3番は作曲者がブレイクする前の意欲作。型にはまらないおもしろさがある。
     最大の聴きものは、フルシャ自身の編曲によるヤナーチェクの歌劇「利口な女狐の物語」大組曲の日本初演だろう。「利口な女狐の物語」にはこれまでにも組曲がいくつか編まれているが、いずれもこのオペラのごく一部分の魅力を伝えるものでしかなかった。今回の編曲は約30分の長さを持ち、オペラのストーリーに添った順序で音楽が組み立てられているという。みずみずしく独創性豊かな音楽にあふれたこのオペラのエッセンスを伝えてくれる待望の組曲の登場を喜びたい。
     フルシャはほかにブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番(独奏:五明佳廉)とブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」(コーストヴェット:1878/80年)を組合わせたプログラムも指揮する。こちらも語り継がれる名演になるのではないだろうか。

公演情報

第1002回定期演奏会Cシリーズ(平日昼)

2024年6月28日(金) 14:00開演(13:00開場)東京芸術劇場コンサートホール

都響スペシャル

2024年6月29日(土) 14:00開演(13:00開場)東京芸術劇場コンサートホール

出演

指揮/ヤクブ・フルシャ

曲目

スメタナ:歌劇『リブシェ』序曲 【スメタナ生誕200年記念】
ヤナーチェク(フルシャ編曲):歌劇『利口な女狐の物語』大組曲 [日本初演]
ドヴォルザーク:交響曲第3番 変ホ長調 op.10


第1003回定期演奏会Bシリーズ

2024年7月4日(木) 19:00開演(18:00開場)サントリーホール

都響スペシャル(平日昼)

2024年7月5日(金) 14:00開演(13:00開場)サントリーホール

出演

指揮/ヤクブ・フルシャ
ヴァイオリン/五明佳廉

曲目

【ブルックナー生誕200年記念】
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 op.26
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 WAB104《ロマンティック》(コーストヴェット:1878/80年)