プロムナードコンサート

プロムナードコンサート　No.382
【五大陸音楽めぐり①　「European Composers in America」】

終了日時：2019年6月2日（日） 14:00開演（13:20開場）

場所：サントリーホールホール案内座席表

～熱気迸るリットンと豪華ソリストの協演～

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出演

指揮／アンドリュー・リットン
ヴァイオリン／三浦文彰

プロフィール一覧

アンドリュー・リットン　Andrew LITTON（指揮）

ニューヨーク・シティ・バレーの音楽監督の契約を2022年まで延長。シンガポール響の首席客演指揮者、英国ボーンマス響の桂冠指揮者、ノルウェイ・ベルゲンフィルの桂冠音楽監督を務める。リットン率いるベルゲン・フィルはレコーディング、ロンドンのBBCプロムスへのデビュー、アムステルダムのコンセルトヘボウ、ウィーンの楽友協会、ベルリン・フィルハーモニー、ニューヨークのカーネギーホール等に出演、国際的な評価を得た。ベルゲン・フィルとの活動でリットンはノルウェー国王ハーラル5世よりNorwegian Royal Order of Mertitを授与。
今シーズン、ニューヨーク・シティ・バレエで30演目以上指揮するほか、シンガポール響、都響、ベルゲン・フィル、アルスター管、国立台湾響、ガリシア響、ユタ響に再登壇。ノルウェイ・オペラ＆バレエにデビューし、ストラヴィンスキー「火の鳥」と「春の祭典」の新プロダクションを2本立てで初演する。
熱心なオペラ指揮者であり舞台感性をもったリットンはメトロポリタン・オペラ、王立コヴェントガーデン・オペラ、オーストラリア・オペラ、ベルリン・ドイツ・オペラ等世界中の主要な歌劇団を指揮。ノルウェーではベルゲン国立オペラの設立にあたりカギとなる人物であり多数の公演は絶賛されている。
ニューヨーク生まれ、ジュリアード音楽院でピアノ、指揮の学士、修士号を取得。ラ・スカラ、ワシントン国立響ではロストロポーヴィチのアシスタントを務める。レコーディングは130を超え、アメリカのグラミー賞、フランスのデァパソン賞等を授与。

三浦文彰　Fumiaki MIURA（ヴァイオリン）

2009年世界最難関とも言われるハノーファー国際コンクールにおいて、史上最年少の16歳で優勝。国際的に一躍脚光を浴びた。

これまでロサンゼルス・フィル、ロイヤル・フィル、ロイヤル・リヴァプール・フィル、マリインスキー劇場管、チャイコフスキーシンフォニーオーケストラ、ベルリン・ドイツ響、NDRエルプ・フィル、ハノーファーNDRフィル、フランクフルト放送響、シュトゥットガルト放送響、ケルン放送響、BBCスコティッシュ管、エーテボリ響などと共演。共演した指揮者には、ドゥダメル、ゲルギエフ、フェドセーエフ、ズーカーマン、ロウヴァリ、ティチアーティ、オロスコ＝エストラーダ、フルシャ、ドゥネーブ、ワシリー・ペトレンコ、カンブルラン、インキネンなどが挙げられる。
サンクトペテルブルクの白夜祭、宮崎国際音楽祭、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭、マントン音楽祭、メニューイン・フェスティバルなどの国際音楽祭にもたびたび招かれる。
リサイタルでは、ルーブルでのパリ・デビュー、ウィグモアホールでのロンドン・デビューが絶賛を博した。
大河ドラマ「真田丸」テーマ音楽を演奏したことやTBS「情熱大陸」への出演も大きな話題となった。
18年からスタートしたサントリーホールARKクラシックスではアーティスティック・リーダーに就任。このほど、ロンドンの名門ロイヤル・フィルのアーティスト・イン・レジデンスに就任。

CDはエイベックス・クラシックスよりリリース。09年度第20回出光音楽賞受賞。
また、19年Forbes「30 UNDER 30 JAPAN」（世界を変えていく30歳未満の30人）に選出された。

使用しているヴァイオリンは、宗次コレクションより貸与されたストラディヴァリウス 1704年製作 "Viotti"。

曲目

ロウ（コウレッジ編曲）：ミュージカル『マイ・フェア・レディ』序曲

曲目解説
コルンゴルト：ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.35

曲目解説
ドヴォルザーク：交響曲第9番ホ短調 op.95 B.178《新世界より》

曲目解説

　フレデリック・ロウ（1901〜88）はベルリンに生まれた。幼い頃からピアノに親しみ、8歳頃にはオペレッタ歌手だった父親の伴奏をするほどになった。やがてピアノのソリストとして地元のオーケストラと共演し、ベルリンの音楽院にも入り、ピアノと作曲を本格的に学んだ。
　1924年、ロウはニューヨークに渡り、ブロードウェイの作曲家を目指すことにした。しかし英語が堪能でなく異国の流儀にも馴染めず、一時は音楽の道を諦めた。そして乗馬教師、金鉱探し、カウボーイ、ボクサーなど様々な職業を転々とした。
　状況が変わったのは1935年。ニューヨークのナイトクラブでピアノを弾いていたところ、デニス・キングという歌手と出会い、彼がロウの《恋が忍び寄る》という曲を劇場で歌ったのである。これによってロウは一気に注目を浴び、1940年代には作詞家・台本作家のアラン・ジェイ・ラーナー（1918〜86）とコンビを組み、1947年『ブリガドゥーン』をヒットさせた。1956年の『マイ・フェア・レディ』は、ロウとラーナーの名声を決定的にしたもので、2717回、6年半にもわたるロングラン上演はブロードウェイの歴史に語り継がれる記録になった。
　1962年、『マイ・フェア・レディ』は映画にもなり、そこで音楽監督を務めたアンドレ・プレヴィン（1929〜2019）はすべての楽曲を指揮しただけでなく、舞台にはなかった映画用の背景音楽を作曲し、この舞台作品が世界的に有名になる一翼を担った。
　物語は英国の劇作家ジョージ・バーナード・ショー（1856〜1950）の戯曲『ピグマリオン』にもとづいている。
　ロンドンの歌劇場での公演が終わった後の人混みで、言葉遣いのひどい粗野な花売り娘イライザが花を売っていた。その場にいた言語学者のヒギンズ教授は興味本位で彼女の英語をメモしていたが、この場所で、インド方言を研究している言語学者でヒギンズ教授を訪ねて来たピッカリング大佐と出会う。ヒギンズ教授は、汚い言葉で花を売る娘も自分が教えれば洗練された言葉遣いをする貴婦人に変貌すると自らの教授法を自慢。その言葉を真に受けたイライザは、ヒギンズ邸を訪ね英語のレッスンを請う。ヒギンズ教授は相手にしなかったが、かたわらにいたピッカリング大佐が半年でイライザが貴婦人になるかどうか賭けをしようと提案。イライザはヒギンズ邸に住み込みで特訓を受けることになった。
　『マイ・フェア・レディ』序曲は、本編に登場する歌の旋律を接続曲風につないだものである。また本日演奏されるスコアは、映画版でオーケストレーションを担当したアレクサンダー・コウレッジ（1919〜2008）によるものとなる。
　賑やかなファンファーレに続いて登場する元気な楽想は、イライザを首尾よく
貴婦人に仕立てあげたヒギンズ教授をはやし立てるアンサンブル・ピース《でかしたぞ》から取られている。冒頭のドタバタが落ち着くと、今度は甘美な旋律が登場する。これはイライザに一目惚れした青年フレディが彼女への思いを歌い上げる《君住む街へ》である。最後は颯爽と《踊り明かそう》の旋律が登場。毎日夜更け過ぎまで英語の発音訓練をし、ついに洗練された言葉で貴婦人になる可能性をつかんだイライザが、自ら王族や貴族との舞踏会で踊る姿を想像し、興奮して眠れない心の高まりを歌うナンバーである。
（谷口昭弘）

作曲年代	1955〜56年
初　　演	ミュージカル／1956年3月15 日　ニューヨーク　ブロードウェイマーク・ヘリンジャー劇場
楽器編成	フルート3（第3はピッコロ持替）、オーボエ、クラリネット3（第3はバスクラリネット持替）、ファゴット2、ホルン3、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、グロッケンシュピール、ドラム、チャイム、シンバル、ハープ、ピアノ（チェレスタ持替）、弦楽5部

　エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト（1897〜1957）の音楽は、少し前まではそのロマン的作風が時代遅れと見なされ、またハリウッドの映画音楽作曲家として活動したためにクラシック界では過小評価されてきた。しかし戦後の前衛音楽の行き詰まりから伝統的な書法が見直され、一方でクラシック音楽を優位に置く序列的価値観そのものが崩れてきた今日の流れの中で、彼の再評価と復興の動きが顕著になってきている。
　もともとコルンゴルトは“正統的な”道を歩んだ“クラシック畑”の作曲家だった。ブルノ生まれの彼は、子供の頃にグスタフ・マーラー（1860〜1911）に評価され、11歳の時に書いたバレエ《雪だるま》がウィーン宮廷歌劇場で絶賛を浴びる（1910年）など神童として知られた。その後の活動も順調で、23歳の時のオペラ《死の都》で名声はさらに高まり、ウィーンの代表的作曲家としての地位を確立する。
　しかし1934年ハリウッドに招かれ映画音楽で評価されたことが人生の転機となった。ユダヤ系だった彼はその後、ナチ支配下となったオーストリアに戻れなくなり、ハリウッドの作曲家としてアメリカに留まったのである。アカデミー賞でオスカーを2度獲得するなど活動は華やかだったが、戦後は古典ジャンルの音楽の作曲を再開した。
　本日のヴァイオリン協奏曲は、最新版のニューグローヴ音楽事典によれば1937年の作で、1945年に改訂されている。つまりハリウッドで名声を博していた時期に書かれ、古典ジャンルに回帰した頃に改訂されたということになる。伝統的な3楽章構成（形式はかなり自由だが）とロマンティックな作風は、彼がウィーンの伝統に根差した音楽家であることを示しているが、作品の主要な主題はハリウッドで書いた映画音楽から取られている。
　「自分は映画音楽とオペラや演奏会作品との区別を付けない」と述べるコルンゴルトだが、まさにこの作品には映画音楽と古典的協奏曲との幸福な結び付きがある。一方ノスタルジックな雰囲気は古き良きヨーロッパへの郷愁かもしれない。独奏の妙技、甘美な旋律、豊かな色彩感とも相まって、この協奏曲は親しみやすい魅力に満ちた名品となっている。
　なお作品は本来、名ヴァイオリニストのブロニスワフ・フーベルマン（1882〜1947）のために書かれたが、彼は結局この曲を演奏することなく、初演もヤッシャ・ハイフェッツ（1901〜87）によってなされている。
　第1楽章　モデラート・ノビレ　映画『新たな夜明け』と『ジュアレ』の旋律を主題とした自由なソナタ形式によるロマン的憧憬の気分に満ちた楽章。
　第2楽章　ロマンス／アンダンテ　映画『アンソニー・アドヴァーズ』の旋律を主題とした甘美なカンタービレ楽章。
　第3楽章　フィナーレ／アレグロ・アッサイ・ヴィヴァーチェ　映画『王子と乞食』の主題をもとに、独奏の鮮やかな技巧を生かした華麗なフィナーレ。
（寺西基之）

作曲年代	1937年　改訂1945年
初　　演	1947年2月15日　セントルイス　ヤッシャ・ハイフェッツ独奏ウラディミール・ゴルシュマン指揮　セントルイス交響楽団
楽器編成	フルート2（第2はピッコロ持替）、オーボエ2（第2はイングリッシュホルン持替）、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2（第2はコントラファゴット持替）、ホルン4、トランペット2、トロンボーン、ティンパニ、グロッケンシュピール、シロフォン、ヴィブラフォン、シンバル、チャイム、タムタム、大太鼓、ハープ、チェレスタ、弦楽5部、独奏ヴァイオリン

　1891年、チェコを代表する作曲家として広く名声を博していたアントニン・ドヴォルザーク（1841〜1904）へ、海の向こうの新興国アメリカで設立されたナショナル音楽院から、アメリカに勃興する音楽文化を支える人材を育成すべく、ぜひ院長にと要請が届く。はじめは断ったものの、熱心な勧誘と破格の好条件に心が揺らぎ、自身の創作にも心機一転を・・・・・・と渡米を決めた。
　1892年9月、ドヴォルザークは汽船で大西洋を渡りニューヨークに到着。大歓迎を受けた彼は、学生たちを教えるかたわら創作にはげむ。とはいえ異郷での暮らしに望郷の念も強く湧き上がる日々。休暇がてらチェコ移民の村を訪れて懐かしい言葉で語り合い、心を慰めていた。
　そんななか、音楽院の黒人学生たちから聴いたスピリチュアル（黒人霊歌）が、不思議に故国の民謡と似ていることに気づき、研究を進めた成果を、新しい大作・交響曲第9番《新世界より》に注ぎ込む。チェコへの熱い郷愁が掘り起こす豊かな語法に、新世界アメリカが拓く新たな感性が出逢ったところに生まれる、熱い昇華というべき作品だ。創作力も頂点を迎えた52歳の傑作、1893年12月の初演も大成功だった。
　第1楽章　アダージョ〜アレグロ・モルト　穏やかに始まる序奏に緊張感が高まっては遠ざかり・・・・・劇的な起伏が聴き手を別世界へ連れ出すよう。やがて音楽は速度を上げ、ホルンが民族的な色をもった第1主題を示す。付点リズムが特徴的なあたりはチェコ民族舞曲とも関連し、次々に登場する主題にはアメリカ先住民の音楽や黒人霊歌からの影響も。
　第2楽章　ラルゴ　管楽器の印象的な序奏が豊かな響きを拡げるのに続いて、イングリッシュホルンが息長く歌い上げる情感に満ちた主題・・・・・この楽章はもともと、アメリカの詩人ヘンリー・ワーズワース・ロングフェロー（1807〜82）が先住民族の英雄を主人公にして書いた野趣あふれる叙事詩『ハイアワサの歌』（1855年作／三宅一郎訳が美しい装丁で出版されている／作品社、1993年）に強い印象を得た。3部形式の中間部では、哀感切々たるメロディが胸に迫り、田舎の踊りのような動機から導かれるように第1楽章の動機が再登場するあたり、不思議なデジャヴのよう。末尾近くの弦楽器など楽器法も情感に素晴らしい遠近感を生み出す。
　第3楽章　スケルツォ／モルト・ヴィヴァーチェ　この楽章も『ハイアワサの歌』の婚礼の場面から着想された。以前からチェコ語訳で読んでいたこの叙事詩からはオペラ化も考えていたがかなわず、しかしこうして交響曲に生き生きと想を与えた。2つあるトリオには、どちらもスケルツォ主題とは対照的な5音音階的な歌謡風旋律と、楽天的な表情を帯びたドイツ民謡風の主題が現れる。
　第4楽章　アレグロ・コン・フオーコ　ぐっと力強い序奏から、雄壮な第1主題が立ち上がる。優しくなだめるような第2主題・・・・・・先行楽章に現れた楽句も次々に再現され、聴き手の記憶を懐かしくかきたててゆく。激しい展開の果てに壮大な終結部へ。全曲の冒頭と呼応するような遠い余韻が消えてゆく、その遥かな漸減まで、じっくりとご堪能いただきたい。
（山野雄大）
　

作曲年代	1893年
初　　演	1893年12月16日　ニューヨーク　アントン・ザイドル指揮ニューヨーク・フィル
楽器編成	フルート2（第2はピッコロ持替）、オーボエ2（第2はイングリッシュホルン持替）、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、弦楽5部

当日券　S・A・B　計60枚程度予定（A・B僅少）。12:45より会場にて発売。
※残席がある場合のみ、休憩（14:40頃）より「おそ割」販売予定。休憩時からのご入場で1回券定価の50％OFF。（5/31up）

聴きどころ

2019年度のプロムナードコンサートは、来る2020年への気運醸成の意味も込め「五大陸音楽めぐり」というテーマのもといつにもまして多彩で親しみやすいプログラムをお届けします。

ベルリンに生まれ、ブロードウェイで活躍したフレデリック・ロウの大ヒットミュージカル『マイ・フェア・レディ』の序曲。オーストリア出身のコルンゴルトはハリウッドで活躍。その音楽はジョン・ウィリアムズはじめ続く世代に絶大な影響を与えました。人気曲ヴァイオリン協奏曲を若きスター三浦文彰の独奏で。そして、ニューヨーク・ナショナル音楽院院長として活躍したドヴォルザークが新天地アメリカでの音楽体験と故郷ボヘミアの記憶を融合・昇華させた名曲《新世界より》。リットンの洗練された指揮で描く、国境を越えて輝いた作曲家たちの肖像です。