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ニュース一覧 2017.07.16 up

レポート

【7/16公演リポート】 インバル指揮 マーラー《大地の歌》&《葬礼》



文:山田治生(音楽評論家)

 桂冠指揮者エリアフ・インバルがマーラーの交響詩「葬礼」と「大地の歌」を取り上げた。「葬礼」はもともと交響曲第2番「復活」の第1楽章として書かれたが、マーラーが、交響曲が完成する前にこの楽章のみを切り離し、単独の交響詩として発表しようとしたのであった。しかし、交響詩「葬礼」は、出版も初演もされず(結局、初演は1983年!)、交響曲第2番に戻され、改訂を経て、その第1楽章となった。つまり、本日は、マーラーが実際には聴くことのできなかった、初期と晩年の作品を並べたプログラムであった。

「葬礼」は、交響曲第2番第1楽章と大規模な相違はないが、管弦楽法や内声の動きが違い、例えば、あの印象的なコルレーニョのシーンもない。インバルは、この曲に原石の魅力を見出だし、巨大な交響曲の第1楽章のように大袈裟には描かず、あくまで独立した作品として再現しているように思われた。

 「大地の歌」の独唱には、現代最高のマーラー歌手の一人であるコントラルトのアンナ・ラーションと気鋭のテノール、ダニエル・キルヒが招かれた。「大地の歌」が始まると、都響の洗練された演奏ゆえ、「葬礼」と比べてのマーラーの管弦楽法の進歩を実感する。インバルはオーケストラをよくコントロール。キルヒには作品にふさわしい若々しさや力強さがあった。ラーションは、深みのある美声で、ホール全体を包み込む。最も感動的であったのは、やはり第6楽章「告別」。インバルは、長大なオーケストラの間奏で、迫り来る別れへの揺れる心を表す。インバルはまだまだ枯れていない。オーボエの広田智之が特筆すべき美しさ。そして、現実では恵まれなかった友がユートピア的な故郷を語るラスト、ラーションの声と都響の音色が絶美の世界を生み出した。最後の「Ewig...ewig...」の繰り返しでは、声とオーケストラが完全に溶け合わされる。名歌手とはこうあるべきなのか。ラーションの本当の凄さを知った瞬間であった。



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文:宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

 将棋の藤井聡太四段によるプロ棋士連勝記録の更新(29連勝)、大相撲の横綱・白鵬がこの名古屋場所で挑戦中の通算勝利数(1047勝)など簡単には破られないと考えられた記録の塗り替えが巷の話題を集めているが、エリアフ・インバル指揮、東京都交響楽団によるマーラーを聴くたびに、前述の新記録樹立と同じく、以前の演奏の高い完成度をさらに上回る極めて高水準の演奏が繰り広げられることに毎回、感動とともに驚きを覚える。本日16日、交響詩《葬礼》と《大地の歌》を取り上げた「都響スペシャル」もそんな〝記録更新〟のような一層の進化と深化を実感させてくれるものであった。

 交響曲第2番第1楽章のベースとなった交響詩《葬礼》の冒頭からマーラーの世界を作り上げる上で欠かせない陰影を帯びた響きの構築が細部にわたってち密になされており、聴く者を一気に引き込んでいく。各パートが自らの存在をしっかり主張し、ステージ上でひしめき合うように各々の旋律や音を存分に表現していくのだが、それらはインバルの棒の下、ひとつの大きなうねりのようなものへ収斂されていき、緻密で深みのあるマーラーの世界が創出されていく。

 このコンビによる《大地の歌》は2012年3月以来2度目でとなるが、表現の細部にわたる彫琢がさらに高度な水準で行われており、「生と死」を問い続けたこの作曲家の〝深淵〟が見事に表現されていた。アンナ・ラーション(コントラルト)はマーラーの声楽作品解釈の第一人者だけに詩の意味合いを声に反映させ説得力十分な歌唱を披露。ダニエル・キルヒ(テノール)もよく伸びる声で表情豊かな歌を聴かせてくれた。弦楽器セクションの厚く温かみのあるサウンド、オーボエをはじめとする木管陣のソロの雄弁さ、安定した金管楽器群、インバルを中心にそれらが一体となって織り成した《大地の歌》は、文字通り〝新記録樹立〟ともいえる画期的な成果に満ちあふれた演奏であった。



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2017年7月16日(日)14:00開演
都響スペシャル
東京芸術劇場コンサートホール

指揮/エリアフ・インバル
コントラルト/アンナ・ラーション *
テノール/ダニエル・キルヒ *

マーラー:交響詩《葬礼》
マーラー:大地の歌 *

※同演目公演
2017年7月17日(月・祝)14:00開演
都響スペシャル