第873回 定期演奏会Cシリーズ

ストラヴィンスキー:バレエ組曲《プルチネルラ》

 1917年4月、セルゲイ・ディアギレフ(1872 ~ 1929)率いるロシア・バレエ団(バレエ・リュス)は、ドメニコ・スカルラッティ(1685 ~ 1757)のピアノ・ソナタを管弦楽に編曲して用いたバレエ《上機嫌なご婦人たち》をローマで初演し、大きな成功を収めた。この成功に気をよくしたディアギレフは、ジョヴァンニ・バティスタ・ペルゴレージ(1710 ~ 36)の音楽に基づき、16 ~ 18世紀に流行したイタリアの即興演劇、コメディア・デラルテに登場するキャラクター、プルチネルラを主人公とするバレエを構想し、イゴール・ストラヴィンスキー(1882 ~ 1971)に編曲を依頼した。その結果生まれたのが、3人の独唱を伴うバレエ音楽《プルチネルラ》である。

 ディアギレフは依頼に際して、彼自身が収集した大量のペルゴレージの楽譜を貸し与えた。ストラヴィンスキーはそこから素材を選び、旋律や低声部のラインをほとんどそのまま残した上で、和声の動きや音の重ね方、色彩の選び方に彼自身の個性を強く打ち出した楽譜を創り出している。

 なお、ディアギレフの収集した楽譜の多くはペルゴレージの真作ではなく、ドメニコ・ガロ(1730 ~ 68頃)やウニコ・ヴィルヘルム・ファン・ヴァッセナール(1692~ 1766)など別人のものが含まれており、《プルチネルラ》にもそれらが紛れ込んでいることが、後に判明している。

 色男プルチネルラが、恨みを抱く男たちに殺されそうになるものの、逆に彼らの恋を手助けする物語が喜劇仕立てで進行する。コンチェルティーノ(独奏楽器群)を伴う、合奏協奏曲を模した編成で書かれた。バレエ全曲から8曲を選び、独唱者のパートを管弦楽に割り振った演奏会用組曲は、1922年に発表され、1949年に改訂版が出版された。

 1. シンフォニア(序曲) 原曲はガロのトリオ・ソナタ第1番第1楽章。

 2. セレナータ ペルゴレージの歌劇『フラミニオ』中のアリアが原曲で、組曲版では独唱パートがヴァイオリン独奏に当てられている。美しいオーボエのソロで始まる。

 3. スケルツィーノ~アレグロ~アンダンティーノ ガロのトリオ・ソナタ第2番他による。

 4. タランテラ ヴァッセナールの合奏協奏曲変ロ長調に基づく。

 5. トッカータ 作者不詳のチェンバロ組曲ホ長調による。トランペットが活躍。

 6. ガヴォットと2つの変奏 やはり作者不詳のチェンバロ組曲ニ長調からとられている。ガヴォットはオーボエのソロで始まる。

 7. ヴィーヴォ ペルゴレージの《チェロと通奏低音のためのシンフォニア ヘ長調》が原曲である。トロンボーンとコントラバスのソロが活躍する。

 8. ミヌエット~フィナーレ ミヌエットはペルゴレージの歌劇『恋に落ちた修道士』から、またフィナーレの旋律はガロのトリオ・ソナタ第12番からとられている。3人の独唱はトロンボーン、トランペット、ホルンに割り振られている。

(相場ひろ)

作曲年代 全曲/ 1919 ~ 20年4月 組曲/ 1922年(改訂1949年)
初  演 全曲/ 1920年5月15日 パリ エルネスト・アンセルメ指揮
組曲/ 1922年12月22日 ボストン ピエール・モントゥー指揮
楽器編成 フルート2(第2はピッコロ持替)、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット、トロンボーン、コンチェルティーノ(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス各1)、リピエーノ(弦楽5部)




ハイドン:ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.ⅩⅧ:11

 ヨーゼフ・ハイドン(1732 ~ 1809)は、チェンバロないしフォルテピアノのためのソナタを現存するだけで50曲以上も作曲した一方で、同じ楽器のための協奏曲は3曲しか遺さなかった。(別に「小協奏曲」とされるものが4曲存在する。)それらのうち2曲は1760年代から70年頃にかけて書かれたが、このニ長調の作品のみは1780年代に書かれたとされる。

 1784年にウィーンのアルタリア社から出版された楽譜には「クラヴィチェンバロ、あるいはフォルテピアノ」を独奏とする旨が表記されている。ハイドンは1780年代の半ばより、常用する楽器をチェンバロからフォルテピアノに代えており、ソナタの書法には、明確にその影響が表れている。本作が書かれたのはその直前の時代にあたるが、ハイドンはこの時期には既に、フォルテピアノの使用を強く意識していたことだろう。また同時期にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756 ~ 91)の知己を得たこともあって、前2作と比べて作風がモーツァルトの協奏曲に接近していることもしばしば指摘される。

 第1楽章 ヴィヴァーチェ ソナタ形式により、まず管弦楽のみで快活な第1主題が提示される。独奏は第1主題を奏でつつ登場し、かなり大きく発展させた後に、シンコペーションが特徴的な短調の第2主題を提示する。展開部は第1主題を重点的に扱う。いくぶん規模の大きい再現部に続いて、独奏がカデンツァを挿入し、その後短いコーダと共に締めくくられる。

 第2楽章 ウン・ポコ・アダージョ 大らかな主題と共に変奏曲風に始められるが、装飾的な動きの多い第2主題が現れ、ソナタ形式風に進められていく。展開部は第1主題の結尾部に基づく短調のエピソードで、ごく短く、すぐに再現部となる。コーダの前にカデンツァが置かれる。

 第3楽章 ハンガリー風ロンド/アレグロ・アッサイ ロンド形式で、ロンド主題に対して3つの副主題が登場する。「ハンガリー風ロンド」と題されているのは、装飾音を伴う特徴的な音程跳躍が多用されるからだろう。

(相場ひろ)

作曲年代 1780年から1783年の間
初  演 不明
楽器編成 オーボエ2、ホルン2、弦楽5部(ただしチェロとコントラバスは「バッソ」として1パート)、独奏ピアノ(あるいは独奏チェンバロ)




ストラヴィンスキー:バレエ組曲《火の鳥》(1945年版)

 イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882 ~ 1971)の初期の3大バレエ《火の鳥》《ペトルーシュカ》《春の祭典》は彼の原始主義時代の所産で、斬新な書法によった原初的なエネルギーと原色的な色彩感溢れる傑作である。この3作はロシアの興行主セルゲイ・ディアギレフ(1872 ~ 1929)の依頼で生み出されたものだった。ロシア文化を西欧に広めようとしていたディアギレフは、1909年にロシアの優秀な舞踏家を集めてロシア・バレエ団(バレエ・リュス)を結成、パリで公演を行うプロジェクトを開始する。

 革新的な考えを持っていた彼は舞踏、振付、音楽、美術を総合した新しいバレエ芸術をめざし、前衛的な才能を求めた。そして1910年のパリ公演で舞台にかける《火の鳥》の作曲者にストラヴィンスキーを抜擢するのだ(ただし当初はアナトーリ・リャードフ〔1855 ~ 1914〕に依頼したのだが、彼の仕事が遅々としたものだったため、ストラヴィンスキーを改めて指名したという経緯があった)。

 大事な出し物の作曲を無名の青年に依頼するとは大胆だが、ディアギレフの目に狂いはなかった。1909年冬から翌年5月にかけて作曲に全力を注いだストラヴィンスキーは、新しい芸術を求めるディアギレフの要求に応え、パリのオペラ座での初演(振付と王子役はミハイル・フォーキン〔1880 ~ 1942〕)を大成功へ導いたのである。

 物語は、魔王カスチェイに囚われた王女と彼女に恋したイヴァン王子が火の鳥の助けによって救われるというもの。ストラヴィンスキーの音楽はそうした内容を色彩的な管弦楽法とロシア民謡を生かした独自の表現法で巧みに描いている。そこには師のニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844 ~ 1908)の影響を残している点もあるが、後に続くバレエ《ペトルーシュカ》《春の祭典》に通じる斬新さを随所に示すなど、彼の個性はすでにはっきり打ち出されている。

 ストラヴィンスキーはこのバレエ音楽を基に1911年、1919年、1945年と3つの組曲を作った。このうち1911年版は基本的に全曲版からの抜粋で、そのため全曲版同様の大規模な4管編成をとるのに対して、1919年版と1945年版は編成を2管に縮小し、その分より効率的に演奏効果の上がるよう楽器法を変えている。両者ともにそれぞれ特徴を持った組曲となっているが、1945年版のほうが響きがよりドライになっているのは、すでに新古典主義に転じてかなりの年月もたった時期の編作であることを考えれば当然だろう。

 またこの時期に新たな組曲版を作った背景には、1945年に正式に米国籍を得た彼が、ブージー&ホークス社と契約を結んで著作権料を得ることを意図したという事情があった。組曲版で頻繁に演奏されるのは1919年版だが、曲数の多い本日の1945年版を好む指揮者も少なくない。

 この1945年版は、それぞれ題の付された以下の部分(各部分の題は全曲版や他の組曲版の題とは必ずしも同じでない)からなる。各曲間を続けて演奏するか、区切って演奏するかは指揮者の任意で、両方の方法ともスコアに載せられていて選択できるようになっている。なお曲間を区切る場合は、下の第2、4、6曲のパントマイム(これらはもともと経過的なきわめて短い部分である)は省略される。


 1a. 序奏 いかにも魔の国を思わせる不気味な音楽。

 1b. 前奏曲と火の鳥の踊り 火の鳥が登場、羽を激しくはばたかせる様が鮮やかに描かれる短い経過的な部分。

 1c. ヴァリアシオン(火の鳥) 火の鳥がイヴァン王子に追われつつ踊る場面の音楽で、はばたきながら逃げる鳥の様子がリアルに浮かび上がる。

 2. パントマイムⅠ 短い繋ぎの音楽。火の鳥は王子に捕えられる。

 3. パ・ド・ドゥ(火の鳥とイヴァン・ツァレヴィチ) 火の鳥は王子に逃がしてくれと嘆願、王子はそれに応じる。オーボエの訴えかけるような主題に始まる叙情的な曲で、エキゾティックな雰囲気を持っている。

 4. パントマイムⅡ 短い経過部。

 5. スケルツォ(王女たちの踊り) 魔王カスチェイに囚われている王女たちが黄金の果実と戯れている場面の軽快な音楽。

 6. パントマイムⅢ そこに王子が登場する。

 7. ロンド(ホロヴォード) 王女たちは優美に踊る。この部分の主題はロシア民謡によっている。なおホロヴォードとはロシアの民俗舞踊の一種。

 8. 凶悪な踊り 火の鳥の魔法でカスチェイと手下が激しく踊り狂う。

 9. 子守歌(火の鳥) 魔王とその手下を眠らせるために火の鳥が歌う子守歌で、ファゴットが主題を吹く。

 10. 最後の賛歌 魔法の解けた王子と王女が結ばれる。ホルンの主題(民謡による)に始まり、壮麗に盛り上がっていく輝かしい終結の音楽で、1945年版では頂点で主題が総奏で現れる際、これ以前の版の半分の音価で歯切れよく奏されるのが印象的だ。

(寺西基之)

作曲年代 全曲版/ 1909 ~ 10年 1911、19、45年に組曲に編曲
初  演 全曲版/ 1910年6月25日 パリ
楽器編成 フルート2(第2はピッコロ持替)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、シンバル、タンブリン、トライアングル、シロフォン、ピアノ、ハープ、弦楽5部