第867回 定期演奏会Aシリーズ

ワイル:交響曲第2番

 クルト・ワイル(1900 ~ 1950)はドイツに生まれ、ナチの干渉を避けて1935年にアメリカへ移住した。代表作『三文オペラ』をはじめ主として劇場音楽の分野で活躍したが、純器楽の分野でもいくつかの優れた作品を残した。

 交響曲は2曲あり、第2番は、著名な音楽の援助者であったポリニャック公夫人(1865 ~ 1943)の委嘱によって作曲された。1933年1月に着手され、3月のパリへの亡命や、歌付きのバレエ《七つの大罪》の作曲で中断されたものの、12月にはスケッチが完成し、2ヶ月後にフルスコアが完成した。

 曲は3つの楽章をもち、おおむね古典的な形式に基づいている。作曲者自身は、この曲は標題音楽ではないとし、初演の指揮をすることになっていたブルーノ・ワルター(1876 ~ 1962)が説明的な標題を求めたのに対しても、《交響的幻想曲》という抽象的なものを提案したのみだった。

 なお、もともとこの曲に使われていた打楽器はティンパニだけだったが、やはりワルターの求めで、一旦は、第2、第3楽章にトライアングル、小太鼓、シンバル、ゴング、テナードラム、大太鼓が加えられた。しかしこれは作曲家の意向に沿うものではなく、ワルターは結局初期案通り、ティンパニのみの形に戻して初演を行った。現行の楽譜でもそうなっている。

 第1楽章 ソステヌート~アレグロ・モルト 導入部付きソナタ形式。冒頭、「ラララシドー」というヴァイオリンに、「ミ♭ラ♭ーソ♭ファー」というヴィオラが応える。この2つの音型はこの曲の多くの重要な主題の種子となっている。次にトランペットが物憂げな旋律を吹いたあと、テンポが速くなり、アレグロ・モルトの主部に入る。第1主題はせわしなく、第1ヴァイオリンがエスプレッシーヴォで歌う第2主題は切なさを感じさせる。展開部は第1主題で始まるが、ここではむしろ、クラリネットの吹く新しい主題の存在感が大きい。再現部では、2つの主題が再現されたあと、テンポが遅くなり、序奏のトランペット独奏に対応するような旋律がクラリネットに現れる。第1主題に基づくコーダで楽章を閉じる。

 第2楽章 ラルゴ 三部形式。(1)「タッタタター」という特徴的なリズムの繰り返される冒頭部分のあと、(2)トロンボーンのソロがあり、そのあと、(3)広い音域を駆け巡る弦に重ねて管楽器がブルックナー風の複付点リズムを吹く部分が来る。中間部は、トランペットとファゴットがコラール風の主題を吹き、いかにも葬送行進曲らしくなる。後半では、前半に出てきた(1)(2)(3)の部分がほぼ逆順に再現される。

 第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ ロンド形式。A-B-A-C-A-コーダという構成。Cの部分は行進曲調だが、これは第2楽章のトロンボーン主題の変形だ。また、コーダはテンポを上げてプレストとなり、それまでの雰囲気とは一転、ハ長調の明るいタランテラとなるが、この部分の主題も、実は第2楽章冒頭の主題の変形である。

(増田良介)

作曲年代 1933年1月~ 1934年2月
初  演 1934年10月11日 アムステルダム
ブルーノ・ワルター指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
楽器編成 フルート2(第1、第2はピッコロ持替)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、ティンパニ、弦楽5部




プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第1番 変ニ長調 op.10

 セルゲイ・プロコフィエフ(1891 ~ 1953)は、多くのロシアの作曲家たちと同様、ピアノの名手で、ピアノのための作品も多い。5曲あるピアノ協奏曲では第3番が最も有名だが、この第1番も演奏される機会が多い。

 この曲は、彼がまだペテルブルク音楽院の学生だった1911年に着手され、12年の冬に完成した。初演は1912年夏、作曲者自身のピアノ、コンスタンチン・サラジェフ(1877〜1954)の指揮で行われた。このときは評価が分かれたが、1914年にペテルブルク音楽院の卒業演奏会で演奏されたときには非常に好評で、プロコフィエフは第1位に相当するルビンシテイン賞を獲得し、この曲は彼の出世作となった。作品は、恩師である作曲家のニコライ・チェレプニン(1873 ~ 1945)に献呈された。単一楽章で書かれており、ピアノ協奏曲としては短いものだが、実際には急-緩-急の3部分に分かれている。

 第1部 アレグロ・ブリオーソ 壮大な主題に続き、ピアノがめまぐるしく駆け回る 部分や、跳ねるようなリズムの部分などが次々に現れる。途中でテンポが遅くなり、 ホ短調で不機嫌な雰囲気の中間部となるが、やがてもとのテンポに戻り、冒頭の壮大な主題が再登場する。

 第2部 アンダンテ・アッサイ 変奏曲形式。《古典交響曲》の第2楽章を思わせる、クールな美しさのある抒情的な主題が繰り返される。

 第3部 アレグロ・スケルツァンド 再びテンポが速くなり、ピアノがユーモラスな主題を弾き始めると、フィナーレに相当する第3部となる。この部分では、第1部に出てきたさまざまな素材が、楽器や表情を変えて次々に登場する。途中にはカデンツァもある。最後は第1楽章冒頭の主題が再度登場し、全曲を堂々と締めくくる。

(増田良介)

作曲年代 1911 ~ 12年
初  演 1912年8月7日(ロシア旧暦7月25日) モスクワ
作曲者独奏 コンスタンチン・サラジェフ指揮
楽器編成 ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、グロッケンシュピール、弦楽5部、独奏ピアノ




ショスタコーヴィチ:交響曲第6番 ロ短調 op.54

 ソ連共産党機関紙『プラウダ』の有名な論説「音楽のかわりの荒唐無稽」によって手厳しく批判され、社会的抹殺の危機にあったドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906 ~ 75)は、(少なくとも表面的には)党の路線に従った交響曲第5番の成功によって、なんとか名誉を回復した。そのような経緯があったので、続く第6番がどのような曲になるかは各方面から注目された。ショスタコーヴィチ自身は、交響曲第6番を「ウラジーミル・マヤコフスキーの詩『ウラジーミル・イリイッチ・レーニン』を用いた合唱・独唱つきの交響曲にしたい」と予告し、進行報告のようなものを書いてさえいる。ただ、彼にそのような曲を完成する気が本当にあったかどうかは疑わしい。

 果たして、実際に発表された第6番は、レーニンとは何の関係もない作品だった。作曲家はこの交響曲について「春のような、喜びにあふれて、若々しい雰囲気」の曲であると述べたが、このコメントがどれほど理解の助けになるかはわからない。全曲が完成したのは1939年10月だった。第5番と同じくエフゲニー・ムラヴィンスキー(1903 ~ 88)指揮のレニングラード・フィルによって行われた初演は、前作のような成功ではなかったものの、それによって作曲者が窮地に追い込まれるほどの失敗でもなかった。なお、ムラヴィンスキー自身はこの曲を気に入っていたようで、生涯にわたってしばしば取り上げている。

 3つの楽章があるが、遅く重苦しく長い第1楽章のあとに、極端に雰囲気の違うディヴェルティメント風のスケルツォとフィナーレが続くという構成は非常に異例だ。これについては、通常の4楽章交響曲から第1楽章を欠いた形であるとか、ベートーヴェンの《月光》ソナタの構成がモデルではないかとか、いろいろなことが言われているが、実際のところ、どのような意図があったのかはわからない。ただ、重苦しい葬送行進曲とディヴェルティメント風の音楽の奇妙な同居という点では、『プラウダ』批判の直後に書かれながら初演が中止され、第6番作曲当時は演奏の見込みのなかった交響曲第4番の終楽章と共通するものがある。

 第1楽章 ラルゴ 演奏時間で全曲の半分以上を占める長大な楽章。2つの大きな部分にコーダが付く形となっている。前半では、冒頭に現れる悲愴感のある主題がさまざまに発展していく。後半は、クラリネット2本の吹く葬送行進曲で始まる。この部分では、時間の止まったような弦楽器の長いトリルの上に、さまざまな管楽器が交互に現れる。特に、カデンツァ風の長大なソロを吹くフルートは重要だ。コーダは、冒頭の主題に始まり、後半部分の葬送行進曲の主題で終わる。

 第2楽章 アレグロ スケルツォ。主部ではいろいろな楽想が気まぐれに次々と出てくる。中間部では、「ド(࢕)ソ(࢖)レ(↑)レ」という音型で始まる跳躍の多い主題が変奏されつつ高揚していく。主部が復帰するところでは、冒頭の主題を吹くバスクラリネットに、フルートが同じ旋律の反行形を重ねる、面白い手法が使われている。楽章の最後では中間部の主題がもう一度短く再現されるが、これは第5番のスケルツォと共通している。

 第3楽章 プレスト ロンド・ソナタ形式。A-B-A-C-A-B-Cのような構成となっている。まずは2分の2拍子で、ロッシーニの『ウィリアム・テル』序曲の「スイス軍の行進」と同じリズムの主題ではじまる。これに続き、第2楽章と同様、にぎやかな楽想が次々とあふれるように飛び出してくる。Bの部分は、モーツァルトの交響曲第40番のフィナーレに似た主題だ。中間部にあたるCは、突然4分の3拍子になり、マルカーティシモ(きわめて明確に)の指示のある非常に力強い主題が現れる。拍子がめまぐるしく交代する部分を経て冒頭の2分の2拍子に復帰すると、音楽はいよいよ狂躁の度合いを増していく。最後には中間部の主題が、今度は2分の2拍子のままで現れ、にぎやかに全曲を閉じる。

(増田良介)

作曲年代 1939年8月~ 10月
初  演 1939年11月21日 レニングラード
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィル
楽器編成 ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット3(第3は小クラリネット持替)、バスクラリネット、ファゴット3(第3はコントラファゴット持替)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、小太鼓、タンブリン、シンバル、大太鼓、タムタム、シロフォン、ハープ、チェレスタ、弦楽5部