第861回 定期演奏会Cシリーズ

ナッセン:フローリッシュ・ウィズ・ファイヤーワークス op.22(1993)

 本公演に指揮者として登場するはずだったイギリスの作曲家、オリヴァー・ナッセン(1952 ~2018)だが、残念なことに7 月8 日に急逝した。彼の作品の中で特に親しまれているものに、アメリカの絵本作家モーリス・センダック(1928 ~2012)の台本によって1980 年代に書かれた2つの児童オペラ『かいじゅうたちのいるところ』と『ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!』がある。ナッセン自身によると、この2作に集中した後、疲れ果てて2年ほどは作曲する気もほとんど失せたという。

 そして作曲を再開するにあたって、自作を含めた大きな構造の作品に嫌悪感を覚えるようになっていた彼は、大作ではこぼれ落ちてしまう大切なものがあると考えて、数分の間に創造的な世界を現出するように緻密な小品の創作をめざす。彼にとってそうした小品の模範のひとつがストラヴィンスキーの《花火》(1908)であり、この《花火》へのオマージュとして《フローリッシュ・ウィズ・ファイヤーワークス》は書かれた。作曲は1988 年夏で、マイケル・ティルソン・トーマス(1944 ~)のロンドン交響楽団首席指揮者就任の演奏会のために書かれ、同年9月このコンビで初演された。その後1993 年に改訂がなされている。

 曲はストラヴィンスキーの《花火》に通じる手法を活用しつつ、主題としてはロンドン交響楽団(LSO)とマイケル・ティルソン・トーマス(MTT)のイニシャルに基づく音型イ(La)-変ホ(eS)-ト(sOl)-ホ(Mi)-ロ(Ti)-ロ(Ti)が様々に用いられていく。煌めきに満ちた色彩、めくるめく響きの変化など、ナッセンの冴えた筆致が光る鮮やかな小品だ。

(寺西基之)

作曲年代 1988年 改訂/1993年
初  演 初稿版/1988年9月15日 ロンドン
マイケル・ティルソン・トーマス指揮 ロンドン交響楽団
改訂版/1993年8月25日 タングルウッド
作曲者指揮 タングルウッド音楽センター管弦楽団
楽器編成 フルート4(第4はピッコロ持替)、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット4、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、ヴィブラフォン、サスペンデッドシンバル、スプリングコイル、ムチ、グロッケンシュピール、タムタム、小太鼓、テナードラム、大太鼓、でんでん太鼓、トライアングル、チェレスタ、ハープ、弦楽5部




武満 徹:オリオンとプレアデス - チェロとオーケストラのための(1984)

 この作品は《アステリズム(Asterism)》(1968)にはじまる、「星座」のシリーズのひとつである。他の作品も、《カシオペア》(1971)、《ジェモー》(1972)等、いずれも独奏楽器とオーケストラのために作曲されている。

 この曲は、「オリオン」と「プレアデス」の2つの部分と、その2つを繋ぐ短い間奏曲から成っている。

1. Orion Lento, quasi una fantasia
2. And Intermezzo
3. Pleiades  Allegretto ben moderato

「オリオン」は、独奏チェロのメリスマ的な旋律が、オリオン3星に象徴される明確な線に形成されていくまでのプロセスであり、ここでは当然、「3」という数字が支配的である。

 「アンド」は、カデンツァ風のパートと、牧歌的なオーケストラの交コレスポンデンス感が織りなす小さな間奏曲。

「プレアデス」では、この星座がつねに集合体の象徴としてあるように、「オリオン」の線に対して運動は多様であり、より色彩的である。

(武満 徹)

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 武満徹(1930 ~ 96)自身の解説にある通り、本作は「星座」シリーズのひとつ。だが、それは当初から計画されていたシリーズというわけではなかった。その起源は、尺八と琵琶をソリストに迎えた《ノヴェンバー・ステップス》(1967)の次に書かれた管弦楽曲、《アステリズム(星群)》(1968)までさかのぼる。

 ピアノと管弦楽のための《アステリズム》は、ソリストに高橋悠治(作曲家・ピアニスト/ 1938 ~)を想定していた楽曲で、武満自身によれば「最後に宇宙的な爆発が起き、次にそこからまた新しいものが生まれる。そういうイメージを構想」した作品だという。つまり武満にとっての天体は静的なものではなく、ビッグバンや超新星爆発のようなスケールで捉えていたことが窺える。そして何らかのプロセスの結果、最終的に別のものに転じるという構成は「星座」シリーズに共通する要素となっていく。

 それに加え、伝説的打楽器奏者ツトム・ヤマシタ(1947 ~)をソリストに想定して書かれた《カシオペア》(1971)では、星座の図形や星の数、音名象徴を作曲の拠り所とする手法を取り入れた。こうした要素を踏襲して書かれたのがハインツ・ホリガー(作曲家・オーボエ奏者/ 1939 ~)とヴィンコ・グロボカール(作曲家・トロンボーン奏者/ 1934 ~)をソリストに想定した《ジェモー(双子座)》1972/86)、そして本作《オリオンとプレアデス》(1984)である。こうして「星座」シリーズは結果的に誕生していった。

 第1曲「Orion オリオン」は、1984 年にオーストリア放送協会からの委嘱によって書かれたチェロとピアノのための《オリオン》にオーケストレーションを施したもの。それゆえ、他の武満作品と比べても音数が少なめで静的な雰囲気が強い。オリオンは和名で「犂(からすき)」といい、「海を統治するはずであったスサノオの娘」のことであると武満自身が書き残している。おおまかにいえば三部形式になっており、不安定な印象をもたらす四分音(クォーター・トーン/半音の半分の音程)を交えたチェロの旋律が曲の雰囲気を作っていく。ホルンとチャイムによる和音が3回聴こえると中間部へ移り、徐々に四分音が使われなくなっていく。クライマックスへ達した後、チェロの短いカデンツァを経て、冒頭の旋律が四分音と共に戻ってくる。

 第2曲「And と」は、2つの星座を繋ぐ間奏曲。チェロと管弦楽を分離させて扱っていくが、チェロの旋律は時に管弦楽に波紋を引き起こす。

 そこから切れ目なく続いていく第3曲「Pleiades プレアデス」は、第1ヴァイオリンが主となって息の長い明快な旋律を提示するところから始まる。プレアデスの和名「昴(すばる)」には、物事をまとめる(統べる)という意味があることを鑑みれば、海を統治できなかった「犂(からすき)」と対置しようとする意図は明らかだろう。こちらも三部形式になっており、終盤に冒頭の旋律が回帰。ただし、すぐにチェロのカデンツァへと移行してしまう。最後は「オリオン」の開始音ハ(C)に収斂していく。

 余談だが、同じ年に武満が作曲した黒澤映画『乱』のテーマ音楽と近似した旋律が「プレアデス」に登場するのも興味深い。あちらは映画の筋としても、黒澤と武満の仲という点でも「統べる」とは反対の離散へと向かっていったからだ。

(小室敬幸)

作曲年代 1984年
初  演 1984年5月7日 パリ
堤剛(チェロ) 尾高忠明指揮 東京フィル
楽器編成 フルート3(第2はアルトフルート持替、第3はピッコロ持替)、オーボエ2(第2はイングリッシュホルン持替)、オーボエダモーレ、クラリネット3(第2は小クラリネット持替、第3はバスクラリネット持替)、ファゴット3(第3はコントラファゴット持替)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、グロッケンシュピール、ヴィブラフォン、マリンバ、チャイム、タムタム、アンティークシンバル、ハープ2、チェレスタ、弦楽5部、独奏チェロ

ホルスト:組曲《惑星》op.32

 古来、音楽は、われわれ人類の宇宙に対するロマンの中で、大きな役割を果たしてきた。古代ギリシアのピタゴラスは星々の奏でる“天球の音楽” について語り、一方、NASA が1977 年に宇宙探査機ボイジャー1号・2号を打ち上げた際には、未知の地球外生命との遭遇を期待して、バッハをはじめとする地球上の様々な音楽を録音した「ゴールデン・ディスク」が搭載された。実際、同じ年に公開されたSF映画『未知との遭遇』では、科学者たちは音楽を使って、異星人との交信を図ろうとする。

 グスターヴ・ホルスト(1874 ~1934)もまた、宇宙の魅力にとりつかれた音楽家のひとりだった。といっても、ホルストは宇宙について、現在の私たちと同じような克明な科学的イメージを持ち合わせていたわけではない。彼は西洋占星術に傾倒し、とりわけ、占星術の大衆化に大きな役割を果たした、20 世紀初頭の英国の占星術師アラン・レオ(1860 ~1917)の著作から影響を受けていた。したがって、組曲《惑星》において描き出されるのも、実際の天体のすがたというよりは、あくまでも西洋占星術の中で7つの惑星が象徴的に表す性格(例えば、火星は攻撃的、金星は美と調和、木星は快活さ、土星はメランコリーなど)であり、それらは各曲の副題に示されている。

 組曲《惑星》はまた、題材のユニークさだけでなく、音楽的観点から見ても、当時の英国音楽の通念を打ち破る異色の作品となった。ホルストは組曲《惑星》を作曲するにあたって、ドビュッシーやラヴェル、ストラヴィンスキー、スクリャービン、シェーンベルクといった同時代の大陸の最先端の音楽的傾向を大胆に取り入れると同時に、4管編成の大規模なオーケストラを駆使して、斬新で色彩豊かな響きの世界を作り出した。アルトフルートやバスオーボエ、テナーテューバといった珍しい管楽器がもたらす独特の色彩感に加え、パイプオルガンと舞台裏の女声合唱は、より大きな空間性の広がりをオーケストラの響き全体にもたらしている。

 こうした大胆な音楽的着想とオーケストレーションは、初演を聴いた当時の聴衆に新鮮な驚きを与えると同時に、その後、映画音楽の分野において―― とりわけ、ジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』のような、宇宙を舞台としたSF 映画の音楽に、多大な影響を残すこととなる。

 組曲《惑星》は、第一次世界大戦の不吉な予感の中で着想された。全曲の中で最初に書かれたのは、第1曲「火星」で、第一次世界大戦直前の1914 年6月にスケッチが完成している。「戦争をもたらす者」という副題が示すように、第1曲では、攻撃的に刻まれる5拍子の執拗なリズム・オスティナートと金管楽器によるファンファーレの咆哮が、戦争のイメージを克明に描き出す。それはもはや、かつての華やかで英雄的な戦いのイメージではなく、近代戦によってもたらされる破壊と恐怖を予言しているかのようだ。

 第2曲「金星」は対照的に、おだやかで安らぎに満ちた緩徐楽章となる。ホルンの独奏と美しく印象的な木管の和音に始まり、中間部では独奏ヴァイオリンがロマンティックな民謡風の旋律を奏でる。

 第3曲「水星」は全曲中で最も短く、「翼のある使者」という副題の通り、軽妙なスケルツォとなっている。ホルストの巧みな楽器の扱いによって、木管やチェレスタが万華鏡のように色彩を変化させながら、軽やかに旋律を受け渡していく。

 第4曲「木星」は、組曲全体の中心に位置する楽章である。「快楽をもたらす者」という副題に示されるように、弦の快活なリズムにのって、ホルンが明るい力強さに満ちた主題を奏でる。作曲者は、木星とは「本来の意味での喜びのほかに、国民的な祝祭に結びつけられるような、儀式的なたぐいの喜びも表現する」ものだと語っている。この言葉の通り、アンダンテ・マエストーゾの中間部では、愛国主義的な性格を帯びた有名な旋律が、威風堂々と歌い上げられていく。

 第5曲「土星」は「老年をもたらす者」である。全体に沈鬱な曲想が支配し、低音の管楽器を中心とした独特な色彩感に縁どられる。冒頭の和声主題、低弦の沈み込むような暗いモティーフ、そして金管による英雄的な主題の3つを組み合わせながら、音楽はゆっくりと進行していく。

 第6曲「天王星」は、再びスケルツォ風の楽章となる。ホルストは、ベルリオーズの《幻想交響曲》の終楽章やデュカスの《魔法使いの弟子》といった魔術的スケルツォの系譜を意識しながら、飛び跳ねるようなリズムと奇怪な和声を駆使して、「魔術師」のすがたを描き出していく。

 第7曲「海王星」は太陽系の中で最も遠くにある惑星である。第1曲と同じ5拍子ではあるが、全曲を通してpp の幽玄で神秘的な曲想が支配する。ハープやチェレスタが星々の輝きを彩りながら、ふたつのグループからなる舞台裏の女声合唱が、はるかかなたから天上の歌声を美しく響かせる。

(向井大策)

作曲年代 1914~17年
初  演 私的な招待演奏会における初演/1918年9月29日
エイドリアン・ボールト指揮 クイーンズ・ホール管弦楽団
公的な全曲初演/1920年11月15日
アルバート・コーツ指揮 ロンドン交響楽団
楽器編成 フルート4(第3はピッコロ持替、第4はピッコロとアルトフルート持替)、オーボエ3(第3はバスオーボエ持替)、イングリッシュホルン、クラリネット3、バスクラリネット、ファゴット3、コントラファゴット、ホルン6、トランペット4、トロンボーン3、テナーテューバ、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、小太鼓、トライアングル、タムタム、チャイム、シロフォン、グロッケンシュピール、タンブリン、ハープ2、チェレスタ、オルガン、弦楽5部、女声合唱(「海王星」のみ)