プロムナードコンサートNo.378

チャイコフスキー:歌劇『エフゲニー・オネーギン』より「ポロネーズ」

 ピョートル・チャイコフスキー(1840〜93)のオペラの中で最も広く親しまれている『エフゲニー・オネーギン』は、ロシアの近代文学の確立者アレクサンドル・プーシキン(1799〜1837)の韻文小説に基づく全3幕の作品(台本はコンスタンチン・シロフスキーと作曲者自身)で、1877年半ばに着手、翌年2月に保養に訪れていたイタリアで完成をみている。

 物語の舞台は1820年代のロシア。ニヒリストである青年詩人エフゲニー・オネーギンは田舎地主の娘タチアーナからの一途な愛の告白を拒絶する。時が経ち、オネーギンは公爵夫人となったタチアーナに再会、見違えるほどに成熟した彼女に今度は彼のほうから求愛するが退けられる。

 本日演奏される「ポロネーズ」は第3幕の幕開けで演奏される管弦楽のみの曲。場面はペテルブルクの上流階級の集まる舞踏会であり、そこには今やグレーミン公爵夫人という高貴な身分となったタチアーナも列席している。どこかいかめしく、また絢爛たる華やかさを持った曲想に、いかにも当時のロシアの上流社交界の様子が映し出されている。その壮麗さは、まだタチアーナが田舎地主の娘だった第2幕における、彼女の家の舞踏会での「ワルツ」や「マズルカ」の素朴さとは、音楽的にも鮮やかなコントラストをなしているといえるだろう。

(寺西基之)

作曲年代 1877〜78年
初  演 オペラ全曲/1879年3月29日(ロシア旧暦3月17日) モスクワ
楽器編成 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23

 チャイコフスキーの代表作の一つに数えられるこの協奏曲は彼の初期の所産で、1874年秋に着手された。彼がモスクワ音楽院教授として活動しつつ作曲家としての名声を次第に高めつつあった頃のことである。彼はこの年の末に、出来上がった部分の楽譜を携えて音楽院院長ニコライ・ルビンシテイン(1835〜81)を訪問する。初演の演奏を依頼しようと考えていたこの先輩にいち早く譜面を見せて意見を求めたのである。しかしルビンシテインは「演奏に値しない代物」と決めつけ、「ほとんどの部分を書き直す必要がある」と酷評した。作品の出来に自信を持っていたチャイコフスキーはこうした批判に憤慨し、「一音たりとも変えるつもりはない」と激しく反論したという。

 実際彼はほぼそのままの形で翌年2月に総譜を完成させ、それをドイツのピアニストで名指揮者だったハンス・フォン・ビューロー(1830〜94)に送った。ビューローはただちにこの作品の独創性を見抜き、同年のアメリカへの演奏旅行の機会にボストンでその世界初演を行った。結果は大成功で、その報はロシアにもすぐに伝えられた。ロシアでもその後ペテルブルクで演奏され、さらに続いて行われたモスクワ初演ではなんとルビンシテインが指揮をとっている。ルビンシテインもこの作品の価値を再認識し、その後はすすんでこの協奏曲を演奏したという。一方チャイコフスキーのほうも他人の批判を受け入れて改訂の手を入れ、完成度の高い現行の決定稿を作り上げたのだった。

 全体は3楽章構成でなるが、ラプソディックな民族的特質を大胆に取り入れることで古典的な協奏曲形式の枠を打ち破っている。それゆえアカデミックなルビンシテインから酷評されたのだろうが、まさにそうしたロシア的特質こそがこの曲の魅力といえるだろう。

 第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ・エ・モルト・マエストーソ〜アレグロ・コン・スピーリト 変ニ長調、4分の3拍子〜変ロ短調、4分の4拍子 朗々とした主題を持つ華麗で長大な序奏が置かれているが、この主題は以後一度も現れることがない。その意味でこの序奏は独立的な一部分を形成している。主部はソナタ形式、民族的な主題に基づき、ヴィルトゥオジティを発揮するピアノ独奏と雄弁な管弦楽によって劇的に展開する。

 第2楽章 アンダンティーノ・センプリーチェ 変ニ長調、8分の6拍子 ロシア的な情感を湛えた美しい緩徐楽章。中間部としてスケルツォ風の急速な部分(プレスティッシモ)が挟まれるが、これはフランスの小唄を主題としている。

 第3楽章 アレグロ・コン・フオーコ 変ロ短調、4分の3拍子 ウクライナ民謡に基づく主要主題と情感に満ちた副主題とによる民族的かつ名技的なロンド・フィナーレ。最後は変ロ長調の圧倒的な終結に至る。

(寺西基之)

作曲年代 1874〜75年
初  演 1875年10月25日(ロシア旧暦10月13日)ボストン
ハンス・フォン・ビューロー独奏
楽器編成 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部、独奏ピアノ

カリンニコフ:交響曲第1番 ト短調

 ヴァシーリ・カリンニコフ(1866〜1901)は、チャイコフスキーやラフマニノフにもその才能を評価された作曲家だった。夭折したため、作品は多くないが、この交響曲第1番をはじめ、その親しみやすい作品は多くの人の心を捉えている。

 1866年1月13日(ロシア旧暦1月1日)、警察官の息子として生まれたカリンニコフは、早くから音楽の才能を発揮し、モスクワ音楽院に入学した。しかし貧しかった彼は、学費が払えず音楽院を退学し、モスクワ・フィルハーモニー所属の音楽演劇学校に移る。この学校では生涯にわたって彼を援助しつづけたセミヨン・クルグリコフ(1851〜1910/後にカリンニコフから交響曲第1番を献呈される)など、良い教師たちと出会ったが、学費を稼ぐために、学業のかたわら、オーケストラでの演奏や編曲、写譜など、あらゆる仕事をしなければならなかった。無理がたたり、カリンニコフの健康は次第に悪化、1887年には結核を発症した。

 1892年に音楽学校を卒業すると、彼はチャイコフスキーの推薦で指揮者としての職を得るが、彼の健康はそれを許さず、翌1893年には友人たちの援助によってクリミア半島に移り、療養しながら作曲を続けることになる。ここで彼は主要な作品の多くを作曲するが、1901年1月11日(ロシア旧暦1900年12月29日)、35歳の誕生日の直前に世を去った。

 交響曲第1番は1895年に完成した。4つの楽章をもつが、先行する3楽章の主題が終楽章に登場するなど、構成にも工夫が凝らされており、若きカリンニコフの意欲が感じられる。主題は、民謡や民族音楽の影響の強い、親しみやすいものが多い。1897年2月にキエフで行われた初演は成功し、第2楽章と第3楽章はアンコールされた。キエフ音楽協会の議長で、初演を指揮したアレクサンドル・ヴィノグラツキー(1855〜1912)はこの曲を愛し、4月にもう一度キエフで演奏したほか、ロシア国内外の各地で取り上げている。ウィーンでの演奏の後、ヴィノグラツキーは作曲者に次のような手紙を送った。「この曲を演奏するといつも、みんなこの曲を好きになります。最も重要なのは、音楽家たちも聴衆もそうだということです」

 第1楽章 アレグロ・モデラート ソナタ形式 まず、弦によって民謡風の第1主題が提示され、それをホルンの音型が受ける。この音型は、第1ホルンが半音階を上昇し、第2ホルンは下降するので、次第に音程が開いていく形になっている。第2主題はヴィオラ、チェロ、ホルンによる歌謡的な美しい主題で、背後では木管がシンコペーションのリズムを吹き続ける。展開部は、両主題が次第に高揚し、クライマックスを築いて静かになったあと、さらにフガートの部分があるという長大なものだ。再現部では、第1主題がオーボエとファゴットで現れ、弦による半音階の音型がそれに応える。第2主題を歌うのは弦だが、提示部とは違い、ハープの分散和音が付いているので華やかさを増している。

 第2楽章 アンダンテ・コモダメンテ 自由な三部形式 ハープとヴァイオリンの序奏に続き、イングリッシュホルンとヴィオラがおだやかな主題を歌う。これが繰り返されたあと、東洋的な主題をオーボエが吹き始める。ここからが中間部だ。やがて冒頭の主題がホルンで戻ってくると、2つの主題が同時に鳴るエピソード部分となる。最後に主部が繰り返されて、静かに楽章を閉じる。

 第3楽章 スケルツォ/アレグロ・ノン・トロッポ 複合三部形式 主部は、ヘミオラ(3拍子×2小節を3+3ではなく2+2+2に分割する)や4音による下降前打音などを効果的に用いた、民族舞曲風の生き生きとした音楽だ。4分の2拍子の中間部は、オーボエが哀愁のある旋律を歌う部分が、少し軽快な舞曲風の部分をはさむ形となっている。その後再び主部が戻るが、そのまま繰り返すのではなく構成には変化がつけられている。

第4楽章 フィナーレ/アレグロ・モデラート~アレグロ・リソルート 変奏曲形式 二重変奏曲の形式を取ったフィナーレ。序奏では、まず第1楽章第1主題が弦で再登場する。次に半音階で音程が開いていく音型が出てくるのも同じだが、こんどはホルンではなく弦と木管で、リズムも軽快だ。ただちに主部へ入り、躍動的で明るい第1の変奏主題が弦と木管に出るが、この主題のリズムは第1楽章第2主題から導かれたものだ。クラリネットが吹くニ長調の第2主題は歌謡的で、ハープと第2ヴァイオリンの分散和音に伴われている。楽章はこの2つの主題が交互に変奏されていく形で進むが、途中には第1楽章第2主題や第3楽章中間部の主題も顔を出す。コーダでは、第2楽章主部の主題が金管で壮麗に回想され、輝かしく全曲を結ぶ。

(増田良介)

作曲年代 1894〜95年
初  演 1897年2月20日(ロシア旧暦2月8日) キエフ
アレクサンドル・ヴィノグラツキー指揮
楽器編成 ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、ハープ、弦楽5部