第844回 定期演奏会Aシリーズ

ドヴォルザーク:序曲《オセロ》op.93 B.174

 アントニン・ドヴォルザーク(1841~1904)は、1891年3月から翌年1月にかけて、《自然と人生と愛》三部作、すなわち《自然の中で》op.91、《謝肉祭》op.92、そして《オセロ》op.93という3曲の演奏会用序曲を作曲した。ただしこれらの名前は後に出版されるときに確定したもので、初演時、各曲のタイトルは、それぞれ《自然》《人生(チェコの謝肉祭)》《愛(オセロ)》と呼ばれており、作品番号も3曲まとめてop.91となっていた。

 現在は独立して演奏されることが多い3曲だが、作曲者は当初、組曲のようにひとまとまりの作品として演奏することを意図しており、実際、プラハでの初演でも、1892年10月21日に行われたニューヨークでの演奏会でも(いずれも作曲者指揮)、3曲がまとめて演奏されている。また、《自然の中で》冒頭の主題が他の2曲に登場するなど、3曲は内容的にも関連づけられている。

 《オセロ》は、1891年11月、ドヴォルザークが50歳のときに着手され、翌年1月に完成した。題名はもちろんシェイクスピアの戯曲に基づいている。ドヴォルザークは1873年に序曲《ロメオとジュリエット》という曲を書いていたが、自ら破棄してしまったので、シェイクスピアを題材とする彼の作品は、この《オセロ》のみということになる。なお、他の2つの序曲と同様、題名には迷ったようで、当初は《悲劇的》あるいは《エロイカ》といった題名も考えられていた。

 レントの序奏と、アレグロ・コン・ブリオの主部を持つ自由なソナタ形式で書かれている。戯曲の内容を忠実にたどるものではないが、たとえば第1主題(木管が先導する)は嫉妬を表すというように、各部分はある程度ストーリーと関連づけられていると考えられている。

(増田良介)

作曲年代 1891年11月~1892年1月18日
初  演 (三部作全曲)1892年4月28日 プラハ
作曲者指揮 プラハ国民劇場管弦楽団
楽器編成 フルート2(第1はピッコロ持替)、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、ハープ、弦楽5部

マルティヌー:交響曲第2番 H.295

 20世紀チェコを代表する作曲家のひとり、ボフスラフ・マルティヌー(1890~1959)の交響曲第2番は、1943年、クリーヴランドのチェコスロヴァキア出身者コミュニティ「アメリカン・フレンズ・オブ・チェコスロヴァキア」からの依頼で作曲され、「クリーヴランドのわが同胞たち」に捧げられた。

 1940年6月、ナチス・ドイツ侵攻直前に活動拠点のパリを脱出、作曲当時のマルティヌーはアメリカで亡命生活を送っていた。彼はすでに高い評価を受けていた作曲家だったが、交響曲第1番を作曲したのは50代になってからだった。しかし、第1番を書くまでに時間を要したが第2番は半年で書き上げたブラームスと同様、マルティヌーも第2番はごく短期間で完成させた。また、作曲者はこの曲を「平安で叙情的」と形容しているが、大規模で劇的な第1番と穏やかな第2番という性格的な対比もブラームスと似ている。

 初演は、チェコスロヴァキア建国25周年にあたる10月28日にエーリヒ・ラインスドルフ(1912~93)指揮クリーヴランド管弦楽団により行われた。なお、同じ日にアルトゥール・ロジンスキ(1892~1958)指揮ニューヨーク・フィルによって《リディツェへの追悼》H.296(プラハ近郊の町リディツェで起きたナチスによる虐殺事件への抗議の音楽)が初演されているが、作曲者は交響曲の方に出席している。言うまでもなく当時のチェコスロヴァキアは、ナチス・ドイツに占領されていた。そのため演奏会は、アメリカ国民のチェコスロヴァキアに対する共感を反映し、大きな関心を呼んだ。このプロジェクトを支援していたチェコスロヴァキア亡命政府の外務大臣ヤン・マサリク(1886~1948)は、ラインスドルフにわざわざ初演に出席できないことを詫びる電報を送ってきた。スメタナの《ヴルタヴァ(モルダウ)》も演奏され、チェコスロヴァキア一色となった演奏会では、民族衣装の少女たちがマルティヌーにかごいっぱいの花を捧げた。

 そして、地元紙『クリーヴランド・プレイン・ディーラー』は「チェコスロヴァキアは今も歌う」という社説で、マルティヌーの交響曲を讃えた。曲はすぐに評判となり、同年12月30日と31日、翌年1月1日にロジンスキ指揮ニューヨーク・フィルによって再演された。1944年には他にも、フリッツ・ライナー指揮ピッツバーグ交響楽団、ディミトリ・ミトロプーロス指揮ミネアポリス交響楽団、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団などがこの曲を取り上げている。

 曲は4つの楽章を持っているが、第1番よりも短く室内楽的で、チェコの民族的要素が強い。この曲以降、マルティヌーは第1番のように大規模な作品よりも、第2番のように簡素な作風を好むようになる。1951年に評論家オーリン・ダウンズ(1886~1955)が行ったインタビューにおいて、マルティヌーは、第1番は演奏されたときは気に入っていたが、今となっては過去の作品であり、今は交響曲第2番の方が気に入っていると語っている。

 第1楽章 アレグロ・モデラート ソナタ形式。開始後まもなく第1ヴァイオリンが提示する第1主題最初の3音A-F-A(イ-ヘ-イ)が、基本音型として楽章全体に登場する。第2主題は同じく第1ヴァイオリンが提示する、半音階的に下降するリズミックなもの。

 第2楽章 アンダンテ・モデラート 三部形式。オーボエとクラリネットの吹くドヴォルザーク的なひなびた旋律が弦に引き継がれ、息長く歌われていく。弦とピアノの和音の上で木管が下降音型を吹く中間部は、いくらか不穏な雰囲気となる。

 第3楽章 ポーコ・アレグロ 三部形式。ユーモラスな行進曲。この行進曲は第1楽章に使用される構想もあった。中間部の後半では、遠くから呼びかけるような、弱音器付きトランペットの印象的なソロがある。

 第4楽章 アレグロ 自由なロンド形式によるフィナーレ。変化に富んだ多彩な主題が出てくるが、常にせわしなく動きつづけ、晴れやかな雰囲気に終始する。

(増田良介)

作曲年代 1943年5月29日~7月24日
初  演 1943年10月28日 クリーヴランド
エーリヒ・ラインスドルフ指揮 クリーヴランド管弦楽団
楽器編成 ピッコロ、フルート2、オーボエ3、クラリネット3、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、小太鼓、大太鼓、シンバル、タムタム、ハープ、ピアノ、弦楽5部

ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 op.73

 ヨハネス・ブラームス(1833~97)が初めての交響曲の構想から完成までに実に20年以上もの歳月をかけたことは、よく知られている。生来の完全主義的な性格と尊敬するベートーヴェン(1770~1827)への強い意識が、伝統ジャンルの中でも最も重要な曲種である交響曲の作曲にあたって、彼をことさら慎重にさせたのだ。しかしひとたび交響曲第1番を1876年に完成させた彼は、翌1877年6月、避暑で訪れた南オーストリアのヴェルター湖畔の町ペルチャッハにおいて、早速次の交響曲第2番に着手し、秋には早くもそれを完成させる。試行錯誤の繰り返しだった第1番での苦吟とは正反対の驚くべき速筆ぶりには、第1番の完成ですっかり肩の荷がおりた彼の様子が窺えるかのようだ。

 作風の点でもこの第2番は、緊迫感に満ちた第1番とは対照的で、あたかもブラームスのふっきれた心を表すかのような明るさと流麗さを持つとともに、風光明媚なペルチャッハの自然を彷彿とさせる穏やかな叙情に満ちている。この作品がブラームスの「田園交響曲」と呼ばれるのもそのような牧歌的性格ゆえだろう。しかし最初の2つの楽章では、そうした明るさの中に孤独な寂寥感や暗い陰りも垣間見られ、それがこの交響曲に情感豊かなロマン的奥行きを与えている。

 一方でこの交響曲がブラームスならではの緻密な論理的書法で構築されていることにも留意すべきだろう。とりわけ第1楽章冒頭に低音に示されるD-Cis-D(ニ-嬰ハ-ニ)の動機は全曲の基本動機として作品を統一する役割を果たしている。主題の展開法も徹底しており、こうした厳しい論理性にベートーヴェンの後継者であろうとする彼の姿勢が窺える。

 第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ニ長調 今述べた低音の基本動機に導かれて、ホルンが牧歌的な第1主題を出す。第2主題はチェロとヴィオラによって歌われる情感豊かなもの。展開部では劇的な盛り上がりが築かれる。ホルンによる息の長い歌に続くコーダは美しい夕映えを思わせる。

 第2楽章 アダージョ・ノン・トロッポ ロ長調 内面の感情を綴ったような緩徐楽章。主部はチェロが寂しげに歌い紡ぐ主題に始まる哀愁に満ちたもの。それに対し嬰ヘ長調の中間部は木管の軽やかな調べが明るい光をもたらす。しかしそれも長く続かず、不安な感情に駆られるように暗い劇的な高まりを見せる。

 第3楽章 アレグレット・グラツィオーソ(クアジ・アンダンティーノ) ト長調 オーボエが示すのどかな主題を中心とする主部に、急速な2つのエピソード(プレスト・マ・ノン・アッサイ)が挟まれる。第1エピソードは主部主題の変奏で、第2エピソードの動機も主部主題から導かれている。

 第4楽章 アレグロ・コン・スピーリト ニ長調 明朗な気分に溢れるソナタ形式のフィナーレ。第1主題はまさに喜ばしさと活気に溢れている。たっぷりとした第2主題もおおらかな気分に満ちたもの。これほど上機嫌なブラームスも珍しいといえるほどの快活さでダイナミックに発展し、その漲るエネルギーはコーダで圧倒的な頂点を築き上げる。

(寺西基之)

作曲年代 1877年
初  演 1877年12月30日 ウィーン
ハンス・リヒター指揮 ウィーン・フィル
楽器編成 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、弦楽5部

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