アラン・ギルバート スペシャルインタビュー

東京都交響楽団 首席客演指揮者

Alan GILBERT

アラン・ギルバート
Alan GILBERT, Principal Guest Conductor

 2018年4月に都響首席客演指揮者へ就任、7月に就任披露公演を迎えた。2019年9月にNDRエルプフィル(北ドイツ放送響)首席指揮者へ就任予定。ロイヤル・ストックホルム・フィル桂冠指揮者、ジュリアード音楽院指揮・オーケストラ科ディレクター。
 2017年まで8シーズンにわたってニューヨーク・フィル音楽監督を務め、芸術性を広げる活動が高く評価された。ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、シュターツカペレ・ドレスデン、パリ管、クリーヴランド管、ボストン響などへ定期的に客演。オペラではメトロポリタン歌劇場、チューリヒ歌劇場、スウェーデン王立歌劇場、サンタフェ・オペラなどへ登場した。メトロポリタン歌劇場とのDVD『ドクター・アトミック』(Sony Classical)、ルネ・フレミングとのCD『ポエム』(Decca)でグラミー賞を獲得。
 都響とは2011年7月に初共演、2016年1月・7月、2017年4月と共演を重ねて大きな喝采を浴び、首席客演指揮者就任が実現した。

© Peter Hundert


2018年4月に都響首席客演指揮者に就任し、新たな歩みを踏み出したアラン・ギルバート
この12月、「春」と「スペイン」をテーマとした2つのプログラムで再び都響に戻ってくる

© Peter Hundert

アラン・ギルバート
『オーケストラと社会を語る』

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アラン・ギルバート『オーケストラと社会を語る』

 2018年度、都響首席客演指揮者に就任したアラン・ギルバート。2017年まで8シーズンにわたりニューヨーク・フィル音楽監督を務めた世界的指揮者である。長年マエストロが重視してきたオーケストラと社会の関係を中心に想いを聞くことができたのでご紹介したい。

文/山田真一(音楽評論家)


クラシック音楽は身近な存在

「音楽は生きた経験です。人生の特定の時間を多くの人と一緒に過ごすという貴重な機会。世の中には様々な文化がありますが、音楽は特定の空間でそこでしか体験できない、という意味で特別な存在です」

―私たちは“音楽”が持つ大きな意義について深く認識すべきということですね。
「我々は生活の中でほとんどの時間、音楽と無縁ではいられません。必ずといって良いほど、どこかで何かしらの音楽が聞こえてくる。それはテレビのコマーシャルかもしれない。エレベーターやビルの中のBGMかもしれない。あるいはレストランで、あるいは街角で……。そして、その中に多くのクラシック音楽が使われています。自分は音楽には縁がないという人、クラシックに興味がないという人でも、実は『ああ、これは知っている』と好きな音楽だったりします」

―ところがそういう人々全てがクラシックのコンサートに来るわけではありません。
「クラシックの形式的なところ、堅苦しさ、高等教育を受けていないと聴けない……といった“障壁”がアメリカでも問題になることがあります。ですから私はもっと自由に聴いていただいて良いと思っています。楽章間に拍手したっていい。聴衆の一人一人が“障壁”と思っていることを排除してクラシック音楽を聴くようになればどんな良いことかと考えています」

© Rikimaru Hotta


―アメリカにはアランさんが音楽監督を務めたニューヨーク・フィルをはじめ世界の音楽史をかたち作った優れたオーケストラがたくさんありますが、それでも“障壁”があるのですか。
「アメリカではよくコンサートに来る聴衆であってもラフで、曲について知らない人は多い。その点は日本の聴衆が非常に優れているところです。来日する度に感心します。ですからアメリカでは常により多くの人に分かりやすく、もっとクラシック音楽について、オーケストラについて知っていただくよう働きかける必要があるのです」

―アウトリーチ活動ですね。日本でも最近、積極的に行われるようになりました。アランさんは古典からロマン派、マーラー、現代音楽まで非常に複雑な音楽でも指揮なさいます。一方で、映画音楽のコンサートもご自身で指揮されますね。
「スタンリー・キューブリック(『2001年宇宙の旅』『シャイニング』などを制作した映画監督)をキーワードにして自分が提案してコンサートを開いたこともあります。やっていて楽しかったですよ。クラシック音楽はそんなに複雑なことじゃない。身近なところに実はたくさんあるということを知ってもらいたかったのです」


新たなコミュニケーション・ツールの活用

―アランさんがニューヨーク・フィルに行かれてから始めたことにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用があります。今では世界的に普及していますが、当時、芸術団体では珍しいサービスが多くありました。しかもアランさんご自身が登場して情報発信された。その効果でニューヨーク・フィルが随分身近な存在になったと聞きます。
「効果はとてもありました。SNSはやって当然です。特に若い世代はSNSをはじめとするインターネットの世界にいる。映画館へ行かずとも新作を見られる時代です」

―映画大国アメリカで映画館にさえ行かないのに、コンサートホールにどうやって足を運んでいただくか、ということですね。
「その通りです。ニューヨークは単に大都市であるだけでなく、ロンドンと並んで世界でもまれに見る人種の坩堝です。実に様々な文化の人々がいる。そのような人々にどうやってコンサートホールに来ていただくか。オーケストラをもっと知っていただく、クラシックに興味を持っていただく、チケットをもっと入手しやすくする。可能な情報発信を何でもする必要があります」


© Diego Torres Silvestre
Times Square, New York City


社会との結びつきを求められる音楽家

―社会との結びつきという点で、アメリカのオーケストラの音楽監督の仕事はとてもユニークです。音楽以外の仕事も多いですね。
「アメリカでは寄付活動がとても重要です(注1)。それを行うのも音楽監督の役割です。世の中の人すべてがオーケストラに関心を持つわけではありません。寄付をしていただけそうな人々や集団であっても、クラシック音楽を聴かない人々はたくさんいます。ですから、教育プログラムなどが重要になってくるのです。また、演劇、舞踊といった他の文化団体との競合もあります。文化に関心があっても、それが必ずオーケストラに向くとは限りません。ですから、できるだけ多くの人々にオーケストラについて関心を持っていただく、そのための社会活動が必要なのです」

―オーケストラは演奏活動だけで閉じているのではない。社会的存在で、社会に貢献できるという姿勢をアピールしようと……。
「そうです。しかし、簡単なことではありません。たとえば地理的要素が重要になることもあります」

―さきほど上げられた人種や文化的背景の違いでしょうか。
「関心を持っていただけそうなプロジェクトを立ち上げた場合、自分と縁のある地域で活動するなら喜んで寄付しよう、という話はよくあります。今ならさしずめ新興国を挙げる人もいます」
―日本では企業の方に寄付をお願いしても、クラシック音楽はわからないから、と断られるケースも多いようです。
「それはアメリカも同じです。上場企業の会長さんのすべてが関心を持つわけではありません。それでもこの活動は続けなければなりません」


  • © Chris Lee
    左から鈴木学、アラン・ギルバート、別所浩郎(国連日本大使)

  • 「グローバル・オーケストラ・プロジェクト」リハーサル」(2017年6月8日/デヴィッド・ゲフィン・ホール)

社会的プロジェクトへの抱負

「オーケストラは現在世界で起こっている情況に無関係ではありません。役立つメッセージを発信できる存在です。その例の一つが『9.11』10周年記念行事にニューヨーク・フィルが参加したこと。また、2017年には国連との連携で「グローバル・オーケストラ・プロジェクト」(注2)を行いました。このプロジェクトは、音楽が国境を越え人々が団結するための架け橋になれる、という趣旨で行われました。そのため世界の紛争地域などからも音楽家の参加を呼びかけました」
―このプロジェクトは世界中に発信されました。通常のコンサートではできないメッセージ、社会的なメッセージを発信することができました。

自分の理想の一つ

「私は人々にもっと先入観なしに音楽を聴いていただきたいと思っています。従来オーケストラやクラシック音楽に対して持っていた見方から離れて。そうすればコンサートにも来やすくなると思っています。そして、オーケストラによる音楽体験そのものおもしろさを味わって欲しい。その一つとして、コンサートの中身を知らずに行くことがあっていいと思います。今日はどんな曲が演奏されるのだろう。どんな体験ができるのだろう、とワクワクする気持ちを持って来ていただくことがあってもいいでしょう」
―レストランのお任せメニューにも通じます。
「きっと新鮮ですよ。でも日本ではこれを行うのは難しいとも聞いています」
―2017年4月のコンサートではジョン・アダムズの《シェヘラザード.2》を日本初演され、評判になりました。
「ええ、あれもそのような狙いからです。そのため敢えてコンサート後半に持ってくるようお願いしたのです」

都響での挑戦

―都響では他に今後どんなことをされたいとお考えですか。
「東京は世界有数の大都市。プロ・オーケストラが10団体ほどあり、世界中のオーケストラが来日する大音楽都市です。とても競争が激しい。ですから単に新作や日本の作曲家を取り上げるという次元にとどまらない、そのような環境の中で活動することの意味を考えたい。ニューヨークでも同じでした。答えは一つではないでしょう。良い挑戦になると思います」



(注1)アメリカではオーケストラにいわゆる公的助成は実質ない(一部の例外を除く)。そのため年間活動費の何割か、ケースよって半分近くを寄付で賄っている。
(注2)ニューヨーク・フィルが主体となって、世界20ヵ国のオーケストラから演奏者が集まって開いたコンサート。都響からは首席ヴィオラ奏者の鈴木学も参加。

12月公演 聴きどころ

文/小田島久恵(音楽ライター)

  • 鬼才アラン・ギルバートが都響と待望の再協演!
    12/10定期B&12/11都響SP

    2018年7月15日 アラン・ギルバート首席客演指揮者就任披露公演
    © Rikimaru Hotta

     2018年7月の首席客演指揮者就任披露コンサートでは、未知数で柔軟性に富んだシューベルトとマーラーを振り、あらためて都響との相性の良さを聴かせてくれたアラン・ギルバート。10月にはNDRエルプ・フィルを率いて来日したばかりだが、12月に再び都響に戻ってくる。オーケストラとのさらなる可能性を追究した最新のプログラムは指揮者の音楽に対する貪欲な姿勢と、都響との爆発的な化学変化(ケミストリー)が期待される内容だ。

     定期Bシリーズと都響スペシャルでは、メンデルスゾーン:序曲『フィンガルの洞窟』とシューマン『交響曲第1番《春》』、そしてストラヴィンスキー『春の祭典』という「春」をフィーチャーした曲が並ぶ。シューマンはギルバートのベスト5に入るお気に入りの作曲家で、『春』はその中でも親しみを感じる曲だという。スコアは複雑でハードルは高いが、指揮者がオケとの関係を深めるために選んだ攻めの一曲。2019年にはブルックナーの『交響曲第4番《ロマンティック》』も都響と共演する予定だが、その布石となる世界観が形作られていく予感がする。

     ストラヴィンスキーの『春の祭典』にも期待。20世紀を代表する名曲にして、初演のパリで大きな物議を醸しだした問題作を、ギルバート×都響はどのように聴かせるか。「私は音楽で物語を語りたい」というギルバート、音響的な衝撃性にもまして、音楽のテーマとなった古代ロシアの生贄の儀式を浮き彫りにする全体像をイメージしているはず。不協和音と変拍子に彩られたバレエ・リュスの異形の舞台を、デラックスな都響サウンドで再現してくれそうだ。

     ギルバートの指揮の魅力は、伝統の重さとモダンでエレガントな軽さが表裏一体になっているところ。変幻自在で予定調和に陥るということがなく、予想外の瞬間に音楽が突然巨大化することがある。指揮者がやりたいことをイメージ通りに演奏する、クオリティの高いオーケストラのレスポンスが求められるのだ。精緻なアンサンブルと演奏技術によって、ハイレベルなスーパー・オーケストラとしての地位を不動にしている都響にとって、いくつもの「想定外」を投げかけてくるギルバートはまさに待ち望んでいた未来の指揮者だといえる。12月には2種類のプログラムが組まれており、どちらも聞き逃せない刺激的な選曲。コンサートでは魔法の瞬間が何度も訪れそうだ。

  • ギルバートと都響の名手達が魅せるスペイン・プロ!
    12/18定期C&12/19定期A

    ヴィオラ/鈴木 学 © T.Tairadate
    チェロ/ターニャ・テツラフ © Giorgia Bertazzi

     この12月に再び都響に帰ってくる首席客演指揮者アラン・ギルバート。定期Bシリーズと都響スペシャルでのシューマン、ストラヴィンスキーの「春」プロに続いて、定期CシリーズとAシリーズでは、カラフルで情熱的なスペイン・プログラムを楽しませてくれる。近年、オペラ指揮者としても世界中で活躍し、2018年5月にはスウェーデン王立歌劇場でR.シュトラウスの『ばらの騎士』を、2019年5月~6月にはミラノ・スカラ座でコルンゴルトの『死の都』を振るなど、歌劇のレパートリーを広げているギルバート。都響と新たな境地を創り上げる意欲が感じられるドラマティックな曲をセレクトした。R.シュトラウス:交響詩『ドン・キホーテ』とリムスキー=コルサコフの『スペイン奇想曲』では、都響のメンバーがソリストとしてフィーチャーされるのも聴きどころ。『ドン・キホーテ』ではソロ首席ヴィオラ奏者 鈴木学が、ゲストのチェリスト ターニャ・テツラフとソロ・パートを演奏し、『スペイン奇想曲』ではヴァイオリン、クラリネット等で都響の首席奏者たちのソロを聴くことができる。『ドン・キホーテ』も『スペイン奇想曲』も指揮者とオケの呼吸感がものをいうエネルギッシュな楽曲。その瞬間に降りてくるひらめきをキャッチした、エキサイティングな掛け合いを聴かせてくれるはず。

     ビゼーの『カルメン組曲』はアラン・ギルバート・セレクションで、「音楽で物語を語りたい」という彼のこだわりが強く表れている。オペラの王道の中の王道ともいえる『カルメン』を歌なしでオケに歌わせる自信があるのだろう。都響も、頻繁ではないが東京二期会のピットや東京・春・音楽祭でオペラの成功を支えてきた功績がある。ギルバートが求めるオペラ的な次元に、冴えたレスポンスをしてくれるのが楽しみでならない。同じスペインを主題にしていながら、異なる国の作曲家を三人並べる自由さも「無限」が似合うギルバートらしい。ボーダーレスで冒険的なプログラムには、ユーモアも感じられる。若くしてニューヨーク・フィルの音楽監督に抜擢され、50代を迎えて指揮者としての本格的な円熟期に入ったアラン・ギルバート。つねに新しい何かを待っている都響とギルバートの出会いは必然だった。両者にとっての未知の次元を切り拓く、華やかなスパニッシュ・プログラムに期待。

映像

  • Subscription Concert No.859 C Series
    Sat. 21 July 2018, Tokyo Metropolitan Theatre
    Alan GILBERT, Conductor
    Gershwin: An American in Paris
    Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra

    第859回 定期演奏会Cシリーズ
    2018年7月21日(土)東京芸術劇場コンサートホール
    指揮/アラン・ギルバート
    ガーシュウィン:パリのアメリカ人

  • TMSO Special
    Mon. 16 July 2018, Suntory Hall
    Alan GILBERT, Conductor
    Mahler: Symphony No.1 (New critical edition / Kubik 2014)(excerpts)
    Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra

    都響スペシャル
    2018年7月16日(月・祝)サントリーホール
    指揮/アラン・ギルバート
    マーラー:交響曲第1番 ニ長調 《巨人》(クービク新校訂全集版/2014年) 第4楽章・第5楽章

  • Message from Alan GILBERT
    Alan Gilbert talks about his 2 Programs in December

    アラン・ギルバート メッセージ
    アラン・ギルバートより12月の公演に寄せてメッセージが届きました

公演情報

第868回 定期演奏会Bシリーズ

2018年12月10日(月)19:00開演(18:20開場)
サントリーホール

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都響スペシャル

2018年12月11日(火)19:00開演(18:20開場)
サントリーホール

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指揮/アラン・ギルバート

メンデルスゾーン:序曲《フィンガルの洞窟》op.26
シューマン:交響曲第1番 変ロ長調 op.38《春》
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》

第869回 定期演奏会Cシリーズ 
(平日昼)

2018年12月18日(火)14:00開演(13:20開場)
東京芸術劇場コンサートホール

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第870回 定期演奏会Aシリーズ

2018年12月19日(水)19:00開演(18:20開場)
東京文化会館

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指揮/アラン・ギルバート
チェロ/ターニャ・テツラフ *
ヴィオラ/鈴木 学 *

R.シュトラウス:交響詩《ドン・キホーテ》op.35 *
ビゼー:『カルメン』組曲より(アラン・ギルバート・セレクション)
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 op.34