ダニエーレ・ルスティオーニ インタビュー

Daniele RUSTIONI

ダニエーレ・ルスティオーニ
Daniele RUSTIONI, Conductor

1983年ミラノ生まれ。フランス国立リヨン歌劇場およびトスカーナ管で首席指揮者を務め、オーケストラとオペラの両分野において彼の世代で最も目が離せない指揮者の1人である。2017年9月に就任したリヨン歌劇場ではブリテン《戦争レクイエム》、ヴェルディ『マクベス』『ドン・カルロ』などの上演が話題を呼んだ。これまでにバイエルン州立歌劇場、ミラノ・スカラ座、トリノ・レージョ劇場、フェニーチェ劇場、ロイヤル・オペラ・ハウス(ロンドン)、オペラ・バスティーユ、メトロポリタン歌劇場、チューリヒ歌劇場などに登場。またサンタ・チェチーリア国立アカデミー管、ロンドン・フィル、バイエルン国立管、アイルランド国立響、BBC響などを指揮。
2014年に日本デビュー、これまでに九響、東響、大阪フィルを指揮。また東京二期会オペラ劇場『蝶々夫人』『トスカ』(ともに管弦楽/都響)に登場した。都響の定期演奏会には2017年2月(《幻想交響曲》ほか)に続いて2回目の登壇。

© Davide Cerati


世界で最も多忙な指揮者の
ひとりは、なぜ都響に帰り
たがるのか 

取材・文/香原斗志(音楽評論家)

  • © Davide Cerati

     ダニエーレ・ルスティオーニ(34)がふたたび都響を指揮する。これは事件である。
     いま、ヨーロッパの歌劇場やオーケストラの関係者は異口同音に「ルスティオーニにオファーしてもスケジュールを押さえられない」と嘆く。それほどの売れっ子であり、むろん売れる理由がある。
     ルスティオーニはすでに都響と共演して、二つのオペラを指揮している。最初が2014年4月のプッチーニ『蝶々夫人』、次が2017年2月の同『トスカ』。ともに東京二期会の主催で、引き締まり彫琢されたなかにカンタービレが横溢したすぐれた演奏だった。『トスカ』に続いて登場した都響の定期演奏会では、この若き指揮者の才能がさらに浮き彫りになった。
     デュカスの《魔法使いの弟子》では多彩な音色を細やかにつむぎ、レスピーギの《ローマの噴水》では洪水のようにあふれる音響と精緻な表現を両立させた。そしてベルリオーズの《幻想交響曲》は、強く推進しつつも気品をたもち、表情豊かでイマジネーションが広く喚起される名演だった。
     昨年9月から、大野和士のあとを受けてフランス国立リヨン歌劇場の首席指揮者を務めるが、「オペラ指揮者」と呼ばれるのをルスティオーニは好まない。日ごろから「完璧な音楽家はドイツやロシアの交響曲、それにフランス音楽も指揮するものだ」と断じ、「30年後に、たとえばクラウディオ・アッバードのようにあらゆる音楽に精通した巨匠になり、どんなスタイルの曲でも最高の演奏を提供できるように、いま努力している」と公言する。
     それが大言壮語ではないことは、これまでの都響との共演で見せた手腕と才能からも明らかで、オファーが絶えない理由もそこにある。忙しさはアンドレア・バッティストーニ(30)、ミケーレ・マリオッティ(38)を加えたイタリアの若手指揮者「三羽カラス」のなかでも群を抜く。
     そんなルスティオーニが早くも都響のもとに帰ってくるのだから、期待は膨らむ。都響への思い、そしてプログラムの狙いについて尋ねた。

  • ――前回の都響との演奏はいかがでしたか。

    第825回 定期演奏会Cシリーズ
    (2017年2月26日 東京芸術劇場コンサートホール)
    © Rikimaru Hotta

     『トスカ』での都響はすばらしかったです。熱い演奏なのに舞台上の歌手の声がよく聴こえたでしょう? 美しいけれど必ずしも大きくない歌手たちの声がよく聴こえるのは、音量を落しても、オーケストラに豊かな表情を与えることが都響にはできるからです。私はいつも言いますが、日本人は心に強い炎があります。まじめで謹厳なのに、内面に炎のような情熱を抱いていて、それを縦横に表現できる。とりわけ都響の演奏はそうです。『トスカ』の音楽をとてもよく理解したうえで、情熱的で、交響的に力強かった。そして音楽への愛を感じました。非常に満足しています。
     ベルリオーズの《幻想交響曲》もそう。いつもながらの正確な演奏でしたが、楽員たちの息が完全に合って、聴き手に伝えたいという強い意志が感じられました。私は世界のいくつものオーケストラと仕事をし、すばらしいと感じたことも数多くありますが、都響ほどの情熱的な演奏にはお目にかかったことがありません。そのことは明らかに聴き手にも伝わります。機能的には完璧でも表情に欠ける演奏が多いのが現実ですが、都響の演奏はいつも熱く、前向きで、表情に富んでいます。練習し、本番を迎え、終われば「はい、さようなら」というありがちな姿勢と正反対で、すべての楽員にパッションがあります。だからこそ私は、また都響を指揮しに行きたいと思うのです。

  • ――リヒャルト・シュトラウスの「イタリアより」は、
    知る人ぞ知る作品ですが、あえて選んだ狙いがあるのですか。

     たしかに、リヒャルト・シュトラウスの初期の作品《イタリアより》を、私はプログラムの中心に据えました。オーストリアで作曲された「ナポリのタランテッラ(舞曲)」とでも言うべき曲で、非常に複雑で長い。それに、冒頭の金管と木管のかけあいはワーグナーのようでもあります。都響はドイツ音楽も非常に上手に演奏し、そのうえ聴衆に伝えようという情熱で抜きんでているので、こういう曲にはうってつけだと思うのです。
     私はいつもソロ・コンサートマスターの矢部達哉さんのことを考えます。まじめに、しかし情熱的に演奏し、ファンタスティックな矢部さんは、都響の全楽員の象徴です。今回は都響と一緒に“爆弾”を落とそうと思います。もちろん美しい爆弾です。都響はドイツ的な演奏に長けていますが、私がそこにナポリのタランテッラの精神、つまりイタリアのテンポを持ちこめば、非常に美しい演奏になるに違いないと思うんです。

  • ――ヴォルフ=フェラーリは奥様の

    フランチェスカ・デゴさんとの共演ですね。

    © Davide Cerati

     ヴォルフ=フェラーリのヴァイオリン協奏曲は、イタリアでもオーストリアでもあまり有名とは言えませんが、とても重要な曲だと思っています。1900年代に活躍したイタリアの作曲家ですが、父親はドイツ人で、本人もチューリッヒで暮らしたという人で、私は彼の曲をできるだけレパートリーに据えたいと考えています。曲はとてもドイツ的な雰囲気をたたえています。
     この曲では私の妻のフランチェスカ・デゴがソロを務めますが、じつは彼女がドイツ・グラモフォンから初めて出したCDが、ヴォルフ=フェラーリの協奏曲集なんです。この協奏曲を書いたとき、作曲家はすでに歳をとっていましたが、アメリカ出身のヴァイオリニストに恋していて、まさにこの曲を通じて彼女に愛を捧げたのです。愛の主題も、カデンツァも、みな若いヴァイオリニストへの愛に捧げられたもので、フランチェスカもその愛を演奏することになります。

  • ――全体としてこういうプログラムにした狙いは、
    どこにあるのでしょうか。

    © Rikimaru Hotta

     これらの曲は、都響との演奏を思い描きながら選びました。都響はドイツ音楽を完璧に演奏できるオーケストラなので、これらを非常に豊かに、しかも丸く演奏できるはずです。アメリカやイギリスのオーケストラのように力で押したりせず、あくまでも丸く形作ることができます。彼らはR.シュトラウスもマーラーも完璧に演奏できるでしょうが、少しイタリア的な要素を加えたかった。だから、あえてR.シュトラウスのイタリアに由来する曲と、半分ドイツ人であるヴォルフ=フェラーリを選びました。この二人はオペラも数多く作曲していますが、そこにモーツァルトの『フィガロの結婚』の序曲も加えています。ですから、半分がシンフォニー、半分はオペラ的な要素で構成されるコンサートだと言えますね。日本のみなさん、とにかくサントリーホールに集結してください!


    ――世界で最も多忙な指揮者、しかも、いまから「巨匠になる」と目されている指揮者。それが「愛する都響」を指揮する。聴き逃してはもったいなさすぎる。

    (2017年8月イタリアのペーザロにて)

ダニエーレ・ルスティオーニ 02
Daniele RUSTIONI, Conductor

1983年ミラノ生まれ。フランス国立リヨン歌劇場およびトスカーナ管で首席指揮者を務めている。2017年に就任したリヨン歌劇場ではブリテン《戦争レクイエム》、ヴェルディ『マクベス』『ドン・カルロ(5幕版)』『アッティラ』などの上演が話題を呼んだ。これまでにバイエルン州立歌劇場、ミラノ・スカラ座、トリノ・レージョ劇場、フェニーチェ劇場、ロイヤル・オペラ・ハウス(ロンドン)、オペラ・バスティーユ、メトロポリタン歌劇場、チューリヒ歌劇場などに登場。またサンタ・チェチーリア国立アカデミー管、ロンドン・フィル、アルメニア国立響、バイエルン国立管、アイルランド国立響、BBC響などを指揮。
2014年に日本デビュー、これまでに九響、東響、大阪フィルを指揮。また東京二期会オペラ劇場『蝶々夫人』『トスカ』(ともに管弦楽/都響)に登場した。都響の定期演奏会には2017年2月の《幻想交響曲》に続いて2回目の登壇。

フランチェスカ・デゴ
Francesca DEGO, Violin

レッコ(イタリア)生まれ。2008年パガニーニ国際コンクールにおいてイタリア人女性初の入賞者となり、最年少でエンリコ・コスタ博士記念賞を受賞して注目を集めた。これまでにノリントン、ホグウッド、ジェルメッティらの指揮で、ケルン・ギュルツェニヒ管、ロイヤル・フィル、フィルハーモニア管、アルトゥーロ・トスカニーニ・フィルなどと共演。2012年にドイツ・グラモフォンと契約、『パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番/ヴォルフ=フェラーリ:ヴァイオリン協奏曲』(ルスティオーニ指揮バーミンガム市響)など3枚のアルバムをリリース。使用楽器は1697年製フランチェスコ・ルジェーリと1734年製グァルネリ・デル・ジェス「Ex.リッチ」(レオンハルト・フローリアン楽器商会より貸与)。

公演情報

第857回 定期演奏会Bシリーズ

2018年6月4日(月)19:00開演(18:20開場)
サントリーホール

チケット購入

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指揮/ダニエーレ・ルスティオーニ
ヴァイオリン/フランチェスカ・デゴ

モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』序曲
K.492
ヴォルフ=フェラーリ:ヴァイオリン協奏曲
ニ長調 op.26
R.シュトラウス:交響的幻想曲《イタリアより》
op.16

映像

第825回 定期演奏会Cシリーズ

2017年2月26日

世界が熱い視線を送る俊英ダニエーレ・ルスティオーニが、都響の定期演奏会に初登場した際の映像です。
色彩豊かでドラマティックなベルリオーズの《幻想交響曲》をご堪能ください。
聴衆にも楽員にも愛されるマエストロに注目です!

    指揮/ダニエーレ・ルスティオーニ
    ベルリオーズ:幻想交響曲 op.14より
    第4楽章「断頭台への行進」
    第5楽章「魔女の夜会の夢~魔女のロンド」